第97話 一縷の望み

 授業が終わり、俺は中倉と二人で帰路についていた。


 地元の新地谷駅で季三月を失った気晴らしに行きつけのゲーセンに立ち寄り、中倉とゲームに明け暮れる。


 店内を歩くと偶に出くわす女生徒の姿に俺は季三月かと思い、心臓がドキッとしてしまい、気分が暗くなる。


 俺はため息を付いてUFOキャッチャーの筐体に手を付いて床を眺めた。


「暗い奴発見っ!」


 背後で山根の元気な声が聞こえた。


「これは相当なダメージですなあ?」


 山根は俺の顔を覗き込んだ。


「う、うるせーよ……」


 俺は彼女から目を逸らした。


「やっぱり、ここに居ると思ったんだ。聞いたよ、苗ちゃんから」


「山根も知る訳無いよな、季三月の居場所」


「知ってたら此処に連行してるよ。まったく! 季三ちゃん居ないなら大神争奪戦に負けた意味無いっつーの!」


 こめかみを手で押さえながらやれやれと言った表情で首を振る山根のオーバーアクション、彼女らしい。


「はは……」


「何なのよ、その弱り切った笑いは!」


 山根は口を尖らせる。


 腕を組んで山根は何か考えを巡らせているかのように天井を見上げて言った。


「季三ちゃんとの繋がりは遮断されたし、でも死んでる訳じゃ無いだろうから何処かで普通に生活しているとして……きっとネットくらいは見てるよね。季三ちゃんの好きな事ってなんだろ? そこにメッセージを送ってこっちの気持ちを伝えるとか……」


「そんな闇雲な…………。待てよ、コスプレ? アニメ? いや……小説! これだっ‼」


 俺の大きな声に驚いた山根は後ずさった。


「な、何っ?」 


「ありがとう山根! ちょっと思いついた事があるんだ!」


 俺はゲーセンを飛び出して自転車に跨った。


「ちょっと、大神! 説明しなさいよっ!」


 俺はゲーセンの外に出て来た彼女に「サンキューな、山根!」と言って一気にペダルに体重を掛け、自宅に直行した。



 ◇     ◇     ◇



 自宅に着くと俺は一目散に階段を上がって自室のノートPCを開いて小説投稿サイトに新規に小説を書き始めた。


 題名は【君に会いたくて……】


 作者名も変更しないとな。ええと、季三月なら分かる名前で……。


【一途な狼】


 書き出しは何て書くか? 


【第一章 キスの続き】


 カテゴリーは恋愛で、よし、書くか。


 俺は憑りつかれたようにキーボードを叩いた。君に会いたい、離れ離れになった恋人同士の切ない話を、俺の気持ちを小説にぶつけた。


 小説は一話だけ、数時間で五千文字を叩き込み、投稿ボタンを押した。


 でもWEB小説なんて投稿砂漠にあっという間に埋もれちまう。俺は同じ一話を何度もコピーして一時間置きに予約投稿設定をする。


 それでも見てくれる確率はゼロに限りなく近いだろう。季三月がこの投稿サイトを使っているとも限らない、俺は主要な投稿サイトすべてにアカウントを作り、同じ作品を連続投稿設定した。


 目が痛い、画面の見過ぎで視界がぼやけて来た。もう限界だ、俺は制服姿のままベッドに飛び込んだ。

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