第95話 現実

 嘘だ、嘘だ、嘘だっ!

 

 俺は通学路を突っ走り、駅に飛び込み出発間近の三笠新城駅方面の電車に駆け込んだ。


 手摺に掴まり肩を大きく揺らして呼吸している俺を、付近の乗客がチラチラと見ている。


 動き出した電車の中、俺はスマホで季三月に『転校したって本当なのか?』とメッセージを送る。


 朝送ったメッセージはまだ既読にはなっていなかった。


 季三月とのキスシーンが脳内で何度も再生される、泣き顔で見つめる彼女……あの時、既にもう会うことは無いと思っていたんだ……あれはお別れのキス……。そんなの認めねぇぞ……季三月…………。


 三笠新城駅に降り立った俺は季三月に電話を掛けた、だけど電話は直ぐに切れる、何度も掛けても自動で……これは着信拒否だ。


 て事はメッセージが既読にならないのはブロックされてるからだろう。


 何でだよ! 胸が張り裂けそうになった俺は新木町に向かった。



 ◇     ◆     ◇



 新木町駅を出ると直ぐに赤いベンチが目に入った。季三月と一緒に食べた饅頭屋はまだ準備中とガラス窓に紙が貼られている。


 俺はそれを一瞥すると彼女の自宅に向けて走り出した。


 季三月の自宅が間近に迫る、早坂との格闘現場を通り過ぎ、俺は目的地にたどり着いた。


 季三月邸の前で上がった息を整え玄関に向かう、何かがおかしい……俺は異変に気付き、息が止まりそうになって立ち尽くす。


 カーテンか付いていない空っぽの家のガラス窓に大きく張り出された派手な【売家】の文字。


「嘘だろ……? 季三月……何でだよ……」


 俺は体から力が抜け、玄関前で膝を付き、絶望の涙を流した。



 駅へ帰る足取りが重い。これは走り過ぎたからじゃ無い、もう季三月に会えないと思うと体の感覚がおかしくなり、まともに歩けない。


 何がどうなってんだ? 絶望してる場合じゃ無い、落ち着け、落ち着いて状況を整理するんだ。


 家が売りに出されてるって事は、季三月自身にはどうにもできない状況が起きたって事だ。彼女のお母さんが家を売りたい……? 何でだ? 経済的理由か? 母子家庭で生活が苦しかったのか? 分からない……でも生活が苦しい様子は感じられなかった。しかも、もしそうだとして姿を眩ます必要があるのか? 借金取りに追われていたのだろうか、季三月はそんな事は微塵も言っていなかったし、もしそうなら俺に何かしらのメッセージを示していてもおかしくない。


 何で逃げるように季三月は皆にお別れもせずに消えたのか、あいつが俺達に何も言わずに居なくなるとは思えない、俺達の友情ってそんなもんじゃ無いだろ? 季三月。


 口止め……? 居場所を知られたくないのか? 何でだ? 


 あーっ! 考えが纏まらねえ、兎に角みんなに報告だ。

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