報告者
第71話 当てつけ
「早坂が自殺未遂⁈」
俺は下校途中に自宅に寄ってくれた山根の言葉に、絶句して玄関前に立ち尽くしていた。
「うん、しかも季三ちゃんに見せつけるようにカッターで手首切ったらしいよ」
「何だって⁉ それで季三月は?」
「貧血起こして苗咲さんが保健室に連れて行ったんだけど、帰りに会ったら元気にしてたよ」
「そっか……良かった。で、早坂は?」
「手首に絆創膏貼って早退したみたい」
「は? そんなんで大丈夫かよ」
「血も殆ど出て無かったみたいだよ、アピールというか当てつけというかホント嫌な奴!」
イライラした素振りの山根は天を仰いで大きくため息を付く。
「ところでさ、バイト迄時間あるから大神の部屋で休ませてくれない?」
「えっ? 別にいいけどバイト何時からだよ?」
「5時からだよ、大神は?」
「同じく」
「ならいいでしょ? お邪魔しまーす!」
山根は乗って来た自転車に鍵をかけ、ウチの玄関ドアを開けた。
デカい声で居間に向かって挨拶をした彼女に俺は背中から声を掛けた。
「誰もいねーよ! 仕事で夜まで帰って来ないし」
「そうなんだ? 大神、私喉乾いちゃった、何か飲み物ある?」
「今持って行ってやるから部屋に行ってろ」
軽快に制服を翻して階段を昇って行く山根の姿、おい! パンツ丸見えだぞ、女なんだから少しは気をつけろよ。
まったく、此処はお前の家か? リラックスし過ぎだろ。
俺は一階のキッチンに入り冷蔵庫の中を覗いた。ウーロン茶しかねえけど、まあいいか。
戸棚からグラスを取り出し、菓子の一つでも無いかと収納扉を何度か開ける。
「あった」
ポッキーじゃねえか。俺は山根とのカラオケの出来事を思い出した、フライドポテトでポッキーゲームみたいな事をして来たあのシーンを。
俺は急にこの家に山根と二人きりでいる事に緊張して来た。
階段で見た山根の下着……あいつ白履くんだ……。
いや待て! 落ち着け、相手はあの山根だ、女だと思うな。
俺はお盆にグラスとポッキーを乗せて自室に向かった。
部屋のドアを開けると、「遅いー」と彼女の声が聞こえた。山根は俺のベッドに仰向けで寝転がりスカートなのに長い足を組み、マンガ本を読んでいる。
またパンツ見えてるじゃないか、ワザとやってるのか? 山根なら有りうる、俺の反応を楽しんでいるのかもしれない。気にするな、平常心、平常心。
いや、待てよ? この無警戒感、山根は俺のこと男だと思って無いのかもな……お互い様か。
俺はポッキーの箱をベリっと開けて二つ入りの袋の一つを山根に放り投げた。
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