第70話 護衛依頼

 最悪だ、これでは季三月を早坂から守れない。


 午後の授業を受ける事を許されなかった俺は自宅に一人で帰っていた。母さんは高校から事の顛末を聞き、何時もは見せない怖い顔をして俺を出迎え、「一洲いちず、本当なの?」と言って事情聴取をして直ぐに出掛けた。


 謝罪に行くと言って……。


 何であんな奴に侘びを入れないといけないんだ? 悪いのは早坂なのに。


 自分の起こした事が周りに迷惑を掛け、男同士の些細な喧嘩だと高をくくっていた俺の気持ちに反して、親が動く現実に自分がだと実感する。


 俺はそんなモヤモヤした気持ちを抱え、自室のベッドの上で布団を抱きしめている。


 そろそろ下校時間か、季三月が心配だ……。


 今、季三月を守れるのは誰だ?


 俺はベッドから起き上がって中倉にスマホでメッセージを送った。


『苗咲に伝えて欲しい』と、俺はその後も長文を送りつけた。


 10分後、スマホが振動し、苗咲からSNSへのお友達登録の依頼が届いた。


 俺は急いで苗咲を登録してメッセージを送る。


『停学の間、季三月を頼めるか?』


 直ぐに返信が返る。


『言われなくても分かってる、バカ!』


 うわっ! 大事な時に停学なんて、怒こってるよな? 苗咲。


 直後にタヌキが『任しておけ』と言っている可愛らしいスタンプが届いた。


 それを見た俺はホッとして、撃たれた猫の姿の兵隊が『後のことは任せたぞ』と言っているスタンプを返した。


 男から守る為に女子に季三月を見てもらうのは若干不安を感じるが、苗咲なら頼りになる。アイツは物静かだけど気は強い、口喧嘩なら早坂には負けないだろう。季三月自体も気心が知れた苗咲が傍なら安心出来る筈だ。


 俺はこの一週間をどう過ごすか……バイトはキッチン内だから高校関係者の誰にも気が付かれない、山根も内密にしてくれるだろう。


 バイトだけは近所だから行く事として、季三月の様子は見たいけど、流石に電車移動は自宅謹慎してないのがバレる可能性があるから残念だが辞めておこう。


 季三月の様子は中倉に聞けばいいか、ここは仲間を信じて助けて貰うしか無いな。


 今のうちに一週間分の反省文を書いておくか、書いておかないと停学延長だし、溜め込んでしまったらイザという時にフットワークが重くなる。


 夏休みの宿題はギリギリ迄やらない派だが、いま俺は、未来の日付の反省文を書く為にベッドから降りて机に向いペンを持つ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る