第65話 偽装

「知ってるのか? 山根」


「一組の早坂って、キモいケメンの?」


 なんつうあだ名付けられてんだよあの野郎。


 俺はバイト先で早坂の事を知っているか山根に聞いていた。


「しつこいって有名だよ、一方的に好きだって言って付き纏うって」


 正にそれだ、山根が言うには今まで何人もの被害者がいたらしい。アイツ今までもそんな事を……。


「季三ちゃん、可愛いから目付けられたんだ……性格的にも強く言えない方だから付け込まれてるのかな?」


 着物風の制服を着た山根は顎に手をやり考え込んでいる。


「それだけじゃ無い、苗咲や俺にもちょっかい出してきやがった」


「何それ? 仲良くしてるから攻撃してくるの?」


「面倒くせえ奴だよ、まったく」


「怖いなぁ、季三ちゃん大丈夫なの?」


「取り敢えずはな、だけどあんまりしつこくされたら、また登校拒否しかねないぞ」


「大神、暫く季三ちゃんに食っ付いてガードしてあげなよ」


 店の前の駐車場に車が停まった、「お客さん来たから、また後でね」山根はそう言って、入口の前でスタンバった。



 ◆     ◆     ◆



 翌朝、何時もより早く家を出た俺は駅の改札口で季三月を待った。


 大勢の人が階段から降りてきて、その中に灰色の髪の毛が見え、俺は彼女に手を振って呼び止める。


「季三月!」


 俺の声に気付いた彼女はニコリと笑って傍に駆け寄って来た。


「お早う大神、珍しく早いね?」


 季三月は辺りをキョロキョロ見渡してしつこいアイツを警戒しているみたいだ。


 俺達は改札を通り抜け、いつも通りの通学路に出た。季三月は、制服のポケットに手を突っ込んで歩いている俺の隣で肩が触れるくらい近くを歩いている。相当怖いのか? 俺は「大丈夫、俺が付いてるよ」と彼女に言った。


 アイツ待ち伏せしてたりするのかな? 早坂が現れたとして何と言って来るやら。


 その時、ツンツンと二の腕をつつかれる気配を感じ、俺は季三月を見た。


「大神? 腕組んでもいい?」


 顔を赤くした季三月が俺を見上げて聞いて来た。


「えっ? いいけど……」


 俺は頭の中が真っ白くなった。


 季三月は俺の腕に自分の腕を回して掴んで頭を腕に付けた。


 頭が腕に当たった瞬間、俺はじっとりと変な汗が出て、それを季三月に気付かれないように平静を装う。


「大神、いい? 私たち恋人同士だからね」


 可愛い顔が俺に近すぎる、しかも腕に胸当たってるし。


「は、はいっ!」


「何そのリアクション?」


 季三月は俺の腕を掴んだまま立ち止まってクスクスと笑った。


 はぁーっ、近いから良い香りがする。髪の毛かな? でも嗅いだらぶっ殺されかねない。


「季三月と恋人同士か。いやぁ、やっと認めてくれたんだ」


 俺はニタニタしながら季三月を眺めた。


「痛ってえ!」


 いきなり腕に激痛が走り俺は叫んだ、暗器でも隠してるのか季三月は。辺りに居た生徒たちが怪訝な顔で俺をチラチラと見ながら通り過ぎて行く。


に決まってるでしょ!」


 季三月は眉間に皺を寄せて俺を睨みつけ、男子の様に声を低くして言った。


 はあ? 何、この季三月の言い方! 癇に障ったのか?


わりい、調子に乗った……てか、今みたいに早坂に断り入れれば付き纏われ無いんじゃないのか?」


「これは大神だから言えるの、アイツに会うと息が詰まって声が小さくなっちゃうし……無理だよ」


 今朝は教室に入るまで早坂には出会わなかった。出会わなかっただけで何処かで見られていたのかも知れないが。


 こんな事が何時まで続くのか? 季三月の為にも早期決着を付けるべきか……腕力で。

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