第64話 兎に角苦手
季三月 昼休み 食堂
「ここ、座ってもいいかな?」
苗咲さんの隣に座って来た男子の姿に私は固まった、私に告って来た早坂君が中華丼定食のお盆をテーブルに置いたからだ。
苗咲さんは眉間に皺を寄せて彼に言った。
「座って良いなんて言って無いけど」
「季三月さんも中華丼にしたんだ?」
どうしよう。ホントに苦手だな、この人。
「ちょっと、私達の女子トークに入って来ないでくれる?」
苗咲さんは不満露わに彼の顔を覗いて言った。
「季三月さん、今日の帰り暇?」
何なの、この空気読めないイケメンは! 大神、どこ行ったのよ! さっきまで居たのに肝心な時に居ないなんて。
「今日は季三月さんは私と用事があるの! 残念でした。おととい誘ってね」
冷笑して苗咲さんは咄嗟に嘘を言って彼の話をポキリと折った。
あーもう、まだ食べ掛けなのに。私はウズラの卵を口に放り込んでお茶を一口飲み込んで立ち上がった。
「じゃあ、明日はどうかな?」
彼も立ち上がって私に食い下がって来た。
はぁ、とため息を付いた苗咲さんが「あなた、女の子と付き合った事無いでしょ? それじゃぁ何時まで経っても彼女は出来ないわよ」と言って彼を諭す。
「はあ? 何がだよ!」
早坂君が大きな声で、威嚇するように苗咲さんを睨んだ。
「うるさいなあ、ストーカが! 近寄らないでよ! 行こう? 季三月さん」
彼女は長い黒髪をバサッっと手で払い、暗に来ないでと彼を威嚇する。
私はお盆を持って急いで苗咲さんの傍に小走りで近寄り、チラリと後ろを振り返った。
彼は面白くなさそうに苗咲さんを睨みつけていて少し怖い。
「見ちゃだめだよ、無視して」
苗咲さんが小声で私に忠告して食器を返却棚に戻した。
教室に戻ろうとした私を苗咲さんはいきなり抱き着いてわき腹をこちょばした。
何⁉ その場にしゃがみ込んだ私に手を伸ばして彼女は言った。
「顔が固くなってるよ、季三月さん。彼の事が嫌ならハッキリ言ってやらなきゃ、面倒な事になってからじゃ遅いんだから」
「面倒って?」
「彼、きっとまた近いうちに話しに来るよ。あーあ、大神、タイミング悪いんだって! せっかくの季三月さんのピンチにいないなんて!」
ホントだよ、バカ大神! 私が困った時は助けてくれるんじゃないの?
何だか怖い、あの早坂君が。見た目は優しそうだけど、話がかみ合わないっていうか、一方的というか、兎に角苦手な人だ。
何で私なんかが気になるんだろう? もっと可愛くて明るくて話し上手な人と付き合えばいいのに。
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