第63話 食堂

 季三月 昼休み、食堂



「あーあ、即バレとか流石にビックリしたよ」


 私は中華丼のうずらの卵を最後に食べようとスプーンで器の端に転がしながら言った。


 一緒に食堂に来ていた苗咲さんが私と向かい合わせに座って焼鮭の身をお箸でほぐしながら聞いて来た。


「でも季三月さん、よく皆の前でコスプレイヤー宣言したよね」


「あんな画像皆に観られたら、どうしようも無いよ」


「私も見たかったのに……何で誘ってくれないのよ!」


 苗咲さんが面白く無さそうに鮭を口に放り込んだ。


「ゴメン、何か恥ずかしくて……」


「あーあ、私達って友達だよね? 大神誘うくらいなら私に言ってくれればいいのに……それとも大神に可愛いところ見せたかったのかな?」


 私の顔にお箸を向けて眼鏡越しにニヤけている苗咲さんの顔と来たら……。


「そ、そんな事あるわけ無いでしょ!」


 ヤバ、大きな声出ちゃった、苗咲さんが変な事言うから過剰反応しちゃったじゃない。


「図星か……季三月さんって大神の事好きでしょ?」


「はぁ? 何であんな奴! いつもいやらしい目で私の事見るし、結構しつこいタイプだし……」


「どこが好きなの?」


「だからっ! そんなんじゃ無いから!」


「じゃあ、何でいつも一緒にいるの?」


 それは……アイツが勝手にくっ付いて来るから……あれ? 何でだろ?


 別に好きな訳じゃ無いし、ええと……私が拒否しないから? いや、拒否したいの? でも大神も一応友達になった訳だし、何か話しやすいっていうか、気にしてくれるのが嬉しいというか……嬉しいの? うーん……。


「中華丼、冷えるよ。自覚無しか、罪作りな女だなぁ」


 フフッと微笑んだ苗咲さんはお漬物を口に運んで物思いにふけった様に遠くを眺めている。


 苗咲さんは言った。


「例えば、大神に彼女が出来たらどうする?」


「えっ⁉ そりゃあ、良かったねって言うよ」


「嘘」


「ホントだよ」


「そっか、ホントにそう言って家で泣くタイプか……」


「ちょっと! さっきから何とか私に大神好きだって言わせようとしてない?」


「バレた?」


「大神なんてただの友達だよ!」


 私の背後で声がした。


「珍しいな?」


 振り返った私は大きな声を上げた。


「お、大神⁉」


 私の体が芯からドキンと音を立てた、びっくりさせないでよ。


「季三月っていつも弁当だろ? 何か食堂に居るの違和感あるし」


 あれ? 顔が凄く熱くなるのを感じる。苗咲さんに大神のこと色々聞かれたから変に意識してるんだ、ヤバい。


「顔赤くね? 食い過ぎたのか?」


「な、なっ! そんな訳無いでしょ!」


 食い過ぎとか普通女子に言う? バカ大神!


「じゃあ、何でそんなに赤いんだよ? 風邪か?」


 彼はいきなり私のおでこに手を当てた。体がビクッと反応したのが苗咲さんにバレてたら恥ずかしい。


「ちょっと、やめてよ!」


 私は大神の手を振り払った。


「何怒ってんだよ? おかしな奴だな。そうだ季三月、甘いもん食うか? 今、小腹空いたから何か買うんだけど」


「い・り・ま・せ・ん」


 正面を向いた私は食べかけの中華丼にスプーンを刺して会話を拒否する。


 大神は、はいはいと言った感じで黙って券売機に向かって居なくなった。


 苗咲さんはご飯を半分ほど残して箸を置き、紙ナプキンで軽く口を拭いた。


「もう食べないの?」


「何か、二人のやり取り見てたらお腹いっぱいになっちゃった」


「何よそれ!」


 苗咲さんは不満を露わにした私を見てクスクスと笑った。

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