近づく影
第62話 即バレ
「ねえ? 季三月さんってコスプレしてるの?」
季三月が登校して席に着くなりクラスメイトの女子が聞いた。
「へっ? 何で……」
そう言って口を閉じるのを忘れた季三月は傍から見ても動揺しているのが分かる。
俺達仲間内の四人しか知らない彼女のコスプレ参加、しかもイベントの翌日なのに即バレとはな……。
あれだけ写真を撮られれば、数時間後には画像掲示板に写真はアップロードされるだろう。それを季三月と面識がある奴が見たのか、それともコスプレ会場にウチの生徒が居たのかは分からないが、地方のコスプレイベントでもこの発信力とは恐れ入る。
俺は季三月がどう対応するのか自分の机の上に腰かけて見守った。中倉も彼女に背を向けた体制ながら耳をそばだてている。
女子生徒の声が教室に響き、皆はコスプレというワードに興味津々の模様。
「これって季三月さんだよね?」
「うぇっ?」
変な声を上げた季三月はその生徒が見せたタブレットの画面に絶句している。
「あはははっ」
感情無く笑って肯定も否定もしない季三月の顔は引きつって血の気が引いたように見え、俺は直ぐに彼女の傍に向かった。
「え? 何? コスプレって!」
季三月の周りにクラスメイトが集まり、タブレットを覗き込む。
「これ、季三月さんなの⁉ 可愛い過ぎない?」
「えっ? 見せて見せて!」
男子生徒も画像を見て言った。
「きなこより可愛くね?」
「エロっ! 季三月、お前最高かよ!」
季三月の机の周りに人が集まり、彼女の姿が見えなくなる。
苗咲が焦って人だかりに割って入り、「辞めてよ、季三月さんが困ってるじゃない!」と助け舟を出す。
皆に取り囲まれた彼女は俯いたまま固まり席に座って動かない。
暫くそのまま季三月の時間だけが止まっているかと思う程の沈黙が流れ、皆は彼女に注目した。
ガタッと椅子を鳴らして急に立ち上がっだ季三月はスーッと息を吸ってから言った。
「そう、それ私なんだ。昨日コスプレの大会があって、私三位入賞しちゃったの。レイヤーのきなこさんもゲストで来ててメチャ褒められちゃったよ!」
は? 季三月、コスプレは秘密じゃ無かったのか? いいのかよ……。
「え? 本当? 凄いじゃない!」
「マジで可愛いんだけど。季三月のファンとかいないのか?」
「ファン? 昨日初めてコスプレ披露したから、まだ誰もいないよ」
いや、ファンは此処に一人いるぞ。
「言っとくが、俺はそのイベントで審査員特別賞を貰ったんだぜ!」
中倉が人だかりに入ってスマホでその時の写真を皆に見せた。
「なにこれ! 中倉君なの?」
「隣はレイヤーのきなこだぜ」
クラスメイト達がその画像を見て爆笑する。中倉の機転で季三月への注目は収まり、季三月はホッとした表情を浮かべて席に着いた。
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