第60話 プロ根性

 季三月の傍から離れ、俺は中倉の元へ向かい、彼の雄姿を撮影してからステージへ山根と向かった。


 設置されたパイプ椅子は殆どが埋まり、俺達は立ち見でゲストのきなこと出場者のトークを眺めた。暫くすると俺のスマホが震え、SNSにメッセージが届いていた。


 季三月だ、俺は直ぐにメッセージを確認しに行く。


『さっきはゴメン、心配してくれたんだよね』


 土下座するウサギの動く絵と共に送られて来たメッセージに俺は安堵した、気持ちがすれ違った訳じゃ無いんだと。


「あれぇ? 早速季三ちゃんと痴話喧嘩したんだ」


 山根が俺のスマホを覗き込んで言った。


「勝手に見るなよ!」


「見るなって言われても、そんなにガッついてスマホ触ってたら気になるでしょ?」


 え? 俺そんなに焦ってスマホ見たのか?


「で、何? 原因は」


「さっき客が季三月のエロい写真撮ってるの邪魔して、俺……揉め事起こしたんだ」


「何やってるんだか……それも織り込み済みでの参加でしょ? ははぁん? さては彼氏的には許せなかったとか?」


「うっ、うるせーな! 彼氏じゃねえし!」


「狼狽し過ぎだよ、大神」


 山根は身体を折り曲げて笑った。


 コスプレの参加者達は順番にステージに呼ばれ、中倉の番が回って来た。ゲストのきなこは中倉のコスプレを偉く気に入ったようだ。きなこは今日、中倉と同じゲームシリーズのキャラに扮したコスプレを偶然していて、きなこは自分のスマホを司会に手渡してツーショットで写真を撮るほど楽しんでいた。


 次々と美人レイヤーがステージに上がり、モデル体型を見せつけ観客の関心を引き、きなこもそれを褒める。


 山根が期待に声を弾ませてピョンピョン跳ねて言った。


「次だよ、次!」


「エントリーナンバー42番、さいこさん」


 司会が季三月をステージに呼び込み、全身をマントで隠した季三月が現れた。


「それでは、オープン!」


 季三月はハラリとマントを脱ぎ捨て、スク水セーラーライフルのコスプレを披露する。


 きなこは言った。


「キター! これは良いですね、スク水セーラー服なんて反則ですよ! これは若い子にしか着れない、最強の衣装です。レベル100超えてますよ!」


 司会は言った。


「さいこさんはこれが初めてのコスプレだそうですよ」


「えっ! 嘘でしょ?」


 きなこが驚きの声を上げる。


 マイクを向けられた季三月は震えた声で答えた。


「家ではしょっちゅうやってましたけど、人前では初めてです」


「あー、分かる! 最初、躊躇うよね。でもこれは超新星だよ! 私もうかうかしてられないなぁ。可愛すぎるもん!」


 季三月のインタビューは終わり、昼に差し掛かった所でアニソンカラオケコンテストが始まり、俺達は昼休憩に入った。


「大神!」


 季三月が俺達の前に現れた。彼女はスク水を隠す為にセーラー服のスカートを履いている。スカートがやけに短い、コスプレ用なのか? 何か逆に欲情するんだけど……。ウチの高校の制服とは違い、セーラー服姿の季三月は新鮮で最高に可愛かった。


「季三ちゃん、可愛いわ! ちょっと風俗っぽいけど」


 山根がニヤついて季三月のスカートをペロッと捲った。


 中がスク水なのは分かっているのに俺は物凄くドキッとしてしまった。


「ちょ、やめてよ! 風俗とか言わないで!」


 季三月は股下10センチほどの丈のスカートを必死で抑えた。


 関係者用に開放されたステージ傍の商業エリアの空きスペース、パイプ椅子と長テーブルがいくつも置かれていて、給湯ポットと電子レンジが数台置いてあった。一応、お茶は飲み放題らしい、そこで俺達は昼飯にしていた。


 銀色のチューブに入ったゼリー飲料のストローを咥えた季三月、それを見て俺は言った。


「それしか食わないのか?」


「うん、あんまり食べたらお腹出ちゃうし……」


 パイプ椅子に座ってハンバーガーを頬張る中倉は感心した様子で言った。


「すげーな、プロかよ!」


「だってアニメのキャラはお腹出てないもん」


 季三月は手すりに腰かけ、足をパタパタさせながらリラックスした表情を浮かべている、俺は彼女の短すぎるスカートが気になって敢えてそれを見ないように体を横に向けた。

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