衝動

第39話 飛べない私

 彩子 屋上



 楽しかったな、皆で行ったプール。


 私はスマホでSNSを開いてプールで撮った写真を眺める。


 四人で撮った山根さんの自撮り写真。みんな笑ってる、私も……。


 高校の屋上のフェンスを越え、四階建ての校舎の縁に立つ私。


 両手を広げ目を瞑る。目を瞑ると平衡感覚が徐々に無くなってくる。今、後ろから強風が吹けば私は屋上から落ちる。でも風は吹かない、お父さんもお姉ちゃんも希未子もまだこっちに来るなと言っているみたい。


 放課後、大神が一緒に帰らないかと言ってくれた誘いを断って一人居残った私。優し過ぎるんだよ大神……。


 何時もの悪い癖が出たみたい、自分じゃ死ねないから、死ぬ勇気がないから風に身を任せてみたんだ。


 これで何回目だよ、此処に来たの……。


 何度此処に立っても風は吹かない、私が無意識に抵抗しているから?


 ふと、お母さんの顔が浮かび、私は急に涙が溢れ出し、校舎の縁に座って泣きじゃくる。


 御免なさい。お母さんを悲しませちゃうのに、たまに出るこの衝動を抑えられない。


 楽しい事があると、私のせいで死んだ人達に申し訳なくなる。なんで生き残った私が喜んでいられるの? と。


 何だか今日は騒がしい感じがする、涙を制服の袖で拭いた私は、地上に出来ている人だかりを首を傾げて眺めた。


 何だろ? 下の階で何か面白いことでもあったのかな?


 運動部の人達がスポンジやエアマットを地面に放り投げている。何が始まるんだろ?


 屋上の鉄扉がバンッ! と大きな音を立てた。


 私はその大きな音にビクッと体を震わせて振り返る。


「季三月! 何やってんだよ?」


 大神が血相を欠いて屋上に現れた。彼は肩で大きく息を付くと、少し怒ったような顔をしてゆっくりと私に近づいて来る。


「えっ? 大神……何で……?」


 これってまさか……私を見て皆が騒いでいるの?

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