第38話 名残惜しい

 夕方、水着から服に着替えた俺達はゲート前に顔を揃えた。


 西日が眩しい、夕方だというのに直射日光はまだ暑い。


 夕日に照らされた季三月の白いワンピースがオレンジ色に染まっている。


 山根は言った。


「あー、面白かった。たまにはこういうのもいいね!」


「だな、特に大神面白かったし」


 中倉は思い出し笑いをしながら言った。


 季三月は黙ってニコニコしている、何時も通りの彼女に戻ったようだ。


 俺は言った。


「んじゃ、帰っか?」


 俺達はほぼ貸し切りの無料送迎バスに乗り込んで駅へ向かった。


 駅に到着すると、俺達は慣れない駅で自宅方向のホーム番号を電光掲示板で確認し、階段を昇ろうとした、すると山根が「私、お手洗いに言って来る、先に行ってて」と言って小走りで姿を消した。それを見た中倉も「オレも」と言って居なくなる。


 俺と季三月はホームに上がり二人で乗車位置に無言で並んだ。


 嫌われたかな、季三月に。いやらしいと言われても否定出来ないくらい見てたからな、俺は。


 でも、スケベ心というよりは、ただ、天使を眺めていただけなんだが……。


 俺は、俺の横でスマホを眺めている季三月に言った。


「ごめんな季三月」


 彼女はスマホから目を放して麦わら帽子のつばを手で上げながら俺を覗き込むように眺めて聞いた。


「何が?」


「その……いやらしいって言ってたから……でもそれは季三月が可愛かったからで、だから……そんなエッチな感じで見てた訳じゃないんだ」


 俺の言葉に季三月は微笑しながら言った。


「分かってるよ。大神がプールに誘ってくれた時から男の子に体を見られる事くらい分かってたし、嫌なら来て無いし、気にしないで」


「そうか? 良かったーっ! 俺、季三月に嫌われたかと思ったよ」


「嫌いじゃないよ、大神のこと」


 彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめて静かな口調で言った。


「じゃあ好きなのかなぁ?」


 大きな声が背後から聞こえ、俺と季三月は身体をビクッとさせて振り返った。


 山根の弾んだ声が聞こえ、早く続きを聞かせろと言わんばかりにがっついているように体を前のめりにさせている。その横で中倉も物凄いニヤついた顔で俺達を見ていた。


「あっ、あっ、あっ!」


 久々に見る季三月のフリーズモード、顔を真っ赤にさせて口をワナワナさせている。


「もう二人とも付き合えよ! じれったいな」


 中倉は顔を赤らめる俺たちに言った。


「バ、バカだなぁ、中倉君!」


 俺は中倉に君付けしてしまう。


 山根は大きな声で笑いながら言った。


本当ほんと分かりやすいわね、二人とも」


 付き合えるならそうしたい、でも彼女がそれを許さない。俺と季三月は何時まで経っても知り合いだから……。


 電車がホームに到着し、俺達は笑顔でその車両に乗り込んだ。



 今日は最高の一日だった。それだけでいいんだ、それだけで……。


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