第37話 挽回のゲーム
プールの施設内のゲーセン、水着でうろつくまばらな客の姿にミスマッチ感が漂う。
だけどまあ、何処にでもあるよな……こういうの。
このゲーセンに力が入っていないのは見れば解る、レトロな機種が多いし、お約束の調整中の張り紙もある、しかもその紙は黄ばんでいて一体いつから調整してんだよと言いたくなる。
言わば骨休め的な、プールにちょっと飽きた時に立ち寄る施設。
山根はワニをハンマーで叩くゲームをしている、流石に手が速い、体育会系女子の本領発揮だ。
季三月はそれを黙って見ている。
これは負けていられない、俺は寂れたゲーセンで得意そうなゲームを探す。
「大神、エアホッケー有るぞ!」
中倉が少しテンションが上がった様子で俺にその機械を指差した。
「しかもダブルス出来るやつだ……」これしかない! 俺はゲーセンを物色している女子二人に言った。
「おーい、コレやろうぜ!」
俺に気づいた季三月が「あっ! 私それやりたーい!」と言って駆け寄って来た。
機械の周りに四人が集まり、俺は季三月と組みたくてマレットを握った季三月と同じコートのマレットを手に取った。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか山根は言った。
「チーム分けのじゃんけんしよ」
中倉が音頭をとって手を差し出して言った。
「せーの、グッパしょ!」
俺はパーを出し、山根と同じ組になった。
季三月とペアになった中倉は俺に何か言いたげにニヤついている。言うな! 分かってるから。
スタートボタンを山根が押し、彼女はマレットを握った手をかざして「絶対に勝つ!」とコートの向かいに立つ二人に啖呵を切った。
コートの中央に青いパックが射出され、山根はそれをチョンとつついて先行を相手側に与えた。自身満々の山根、俺も中倉季三月ペアには負ける気はしないが。
「行くよ!」
季三月がバックを打ち壁に反射させる、壁にあたる度にギュンと電子音が鳴りラリーが続く、山根は勢いよくパックを撃ち込み、瞬間、パックは相手ゴールに消えた。
俺達は格の違いを見せつけ一気に四点連取する。
「くっそーっ!」中倉はバックを季三月に与え「行け!」っと気合を入れる。
季三月は勢いをつける為、姿勢を低くして構えた、胸元が重力に負け大きな胸が谷間を作る。
ギュギュンと電子音が鳴り、俺達は初失点を喫した。
全く反応出来なかった、季三月の胸を見てたから……。
「いえーい!」
季三月が中倉と可愛くハイタッチをした、くっそー中倉の奴め。
その直後から俺の調子は狂い逆転を許した。パックを打つ度に揺れる季三月のたわわな部分、ヤバい、反則だろ! 集中出来ねえ。
あっという間にマッチポイントを取られた俺達、「あー大神! しっかりしてよ!」山根が苛ついて棘のある声を出した。
結局この試合に俺達は負けた、完全に俺のせいで。
「ズルい、反則だよ!」
山根は怒って季三月に言った。
「え? どうして?」
「そんなにおっぱい揺らしたら大神が集中出来ないじゃない!」
「えーっ⁉」
季三月は驚いた顔で俺を見た途端、両腕で胸を隠した。
俺はうろたえて叫んだ。
「うわあああっ! 何言ってんの? 山根さん!」
何故か敬語で。
山根が噴き出して笑った。「何でさん付け? 焦り過ぎでしょ大神! 図星だった?」
エアホッケーの端につかまり、しゃがみ込んでケタケタと笑い続ける山根、ツボに入ったらしい。
季三月は眉をひそめて言った。
「大神って、さっきから目付きがいやらしいんだよ」
言われたーっ! 最悪だ、でもそんな兵器みたいな体してたら男なら誰でもガン見するだろ! チラ見しかしてない俺は紳士の部類に入るってのに。
その後、季三月は何となく俺から距離を取るように振る舞い続けた。
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