第36話 日陰の俺

 えっ? いいのか? お前から誘ってくれるなんて嬉しいぞ。


 季三月は「あっち」と言って、後ろを指差す。


 そこには顔はめパネルがあった、季三月の好きそうなリゾート施設とアニメコラボのが。


「あっ……あれね」


 少しガッカリした俺だったが、気を取り直して中倉に写真を撮ってくれと伝えパネルの後ろに季三月と回り込んだ。


 顔の穴の位置がおかしい、絵がデフォルメされているからしょうが無いが……。


 俺は少し屈んで下側の穴から顔を出し、季三月は上の穴から顔を出そうとしたが位置が高くて顔が出せない。


「何、この穴。位置おかしくない?」


 爪先をプルプルさせ、季三月は穴から外を覗こうとしたが背丈が足りていないようだ。


「もう!」


 季三月は俺の背中に右足の脛を乗せ踏み台代わりにする。


 意地でも穴から顔を出したいみたいで俺に体重を掛け、モゾモゾと動く。


 ぐらつく体を支える為に俺の両肩に手を付いて季三月は身体を支え、穴から顔を出した。


 中倉がスマホで撮影の合図を送り、季三月はすぐさまパネルの後ろから中倉の元へ駆け寄って画像を確認している。満足そうに笑った季三月は中倉に画像を送信してもらいニンマリと微笑む。


「次、何しよっか?」


 季三月は山根を捕まえて周りを見渡し、指を差して二人で浜辺の近くにある建物に入って行く。


 その光景を俺は顔はめパネルの穴から見ていた。おい! 季三月! 完全に俺の事忘れてるだろ! 


 中倉はパネルの穴から顔を出したまま呆然としている俺をスマホで撮影しながら噴き出した。


「お前! 寂し過ぎるだろ!」


 脱力してパネルの裏から姿を晒した俺の姿に中倉は苦笑いを続けている。


「俺、季三月の踏み台にされただけだった、皆から俺は見えてるのか?」


「拗ねるな、アイツらゲーセン入って行ったから今度は勝機有りだろ?」



「そうか? なんか俺、自信無くなって来たわ」

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