第35話 撮りたい水着
「え? 季三ちゃんって泳げなかったの?」
山根が驚いた声を上げた。
陸に上がった季三月はカラフルなゴム製の浜に膝を抱えて座っている、若干口を尖らせながら。
「私、北国出身だから泳げないの!」
俺は彼女の傍でしゃがみ、少し驚いて言った。
「えっ? そうだったんだ。でも、なんで北国出身だと泳げないんだよ」
「プールの水が冷た過ぎて誰も泳がないよ、プールに浸かったら最後、唇紫色になるんだから!」
「だからあんなにビクビクしてたんだ、季三ちゃん可愛い!」
山根は口に手をあてて笑った。
「あんなに水深あるって聞いてないし!」
へそを曲げた季三月は何故か俺に怒った。
「借りてきたぞ」
中倉が、浮き輪を座っている季三月の体に後ろから嵌めて、俺の傍に屈んて耳打ちをして来た。
「これで、ロリ巨乳の完成だな」
そう言われると……何だこの背徳感。
「何か、格好悪い……」
季三月は立ち上がって透き通ったピンクの浮き輪を腰に嵌めた。
「うわー、かわいい!」
山根が防水ケースに入ったスマホで写真撮影を始めると、季三月は凄く嫌がって「ヤメてよーっ」と声を上げて逃げ出した。
その光景を俺は羨ましく思って眺めた。俺も写真撮りてえ、でも季三月は嫌がるだろうな。
「写真撮るか!」
中倉はビニールケースからスマホを取り出した。おい、ズルいぞ、俺だって撮りたいのに。
中倉はニヤニヤしながら女子二人にレンズを向ける。傍から見たらヘンタイにしか見えないが。
その動きに気づいた二人は「やだっ、ヘンタイだ。逃げろー」「きゃー、盗撮犯!」と言って逃げまくる。
中倉は「待て待てー」と追いかけて行く。
その反応は予想してた、だからレンズを向けられないんだ。
そう思ったのも束の間、中倉は二人をスマホで撮っている。しかも二人ともピースしてるじゃねえかよ! 俺も混ぜろって!
急いで三人に駆け寄った俺だったが、何となくスマホを取り出せなかった。その光景を眺めているだけで楽しかったから。
「大神も撮ろうよ!」
山根が俺に声を掛け、彼女の自撮りに加わってスマホのレンズを眺める。後ろに季三月と中倉も参加して四人で写真を撮った。
直ぐに山根は撮りたての写真をスマホをいじってSNSで皆に送信してくれた。ピコンと俺のスマホに音が鳴り、写真が届いた。季三月は俺の後ろで小さく映っている。
小せえけど可愛い。
大した写真では無いけど、皆が楽しそうに笑っている幸せの瞬間をを切り取った画像。
これだけでも十分満足だ。
その時、山根からメッセージが送られて来た。
『オマケお宝画像』
何だ? と思った瞬間、季三月の水着の画像が数枚送られて来た。
ゲッ! 可愛すぎだろ、この画像! でもこの写真を見ているのが季三月にバレたら殺されかねない。教室の片隅でコクられたあの時の出刃包丁を俺は思い出す。
心肺停止したんだ、あの時俺は。
ふと、当時の状況が頭の中によぎった、季三月が言った言葉を。
そういえばあいつ、俺に人工呼吸したって言ってたよな、あれってホントなのかな?
スマホをぼんやりと握り、考え事をしている俺にチョンチョンと突付く気配。
ふと、その方角に目をやると季三月が俺を見ていた。
俺は体をビクッとさせてしまった、スマホの画面に映る山根に貰ったお宝画像を見られたかと思って。
「ねえ? 一緒に撮らない?」
ちょっと気恥ずかしそうに季三月は俺にスマホを見せながら言った。
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