第31話 現地集合

 土曜日、朝9時。



 俺と中倉は電車に揺られること50分、待ち合わせの南山瀬駅に到着した。駅の構内にはプールの広告がデカデカと張り出されている。山瀬高原リゾート、その施設最大の売りが波の出るプールとウォータースライダーだ。入場料は学割で込々3600円、このチケットは追加料金無しでプール内なら何でも遊べる、飲食は含まれないが。当然、季三月と山根の分の入場料は俺の驕りだ。交通費と飯代も入れれば高校生にはどデカイ出費だがその為に始めたバイトだ、だから使うのは惜しくない。


 彼女達はもう着いているのだろうか、俺はSNSで到着を知らせた。


「おーい、大神!」


 駅のお土産屋で山根が俺を大きく手を振りながら呼んだ。ドバっと出た長い足が眩しい、山根はダボッとした薄茶色の長袖を羽織り黒い短パンを履いていた、スポーツをしていただけの事はありスラっとした足が綺麗で俺は思わず彼女に見入ってしまった。


「山根ってあんなにスタイル良かったんだ」


 中倉が俺の耳元で囁いた。彼も山根とは面識がある、同じ中学だったからだ。


 俺達が土産屋に近寄ると山根は店の中に向かって手招きをしながら言った。


「季三ちゃん、大神たち来たよ」


 饅頭の陳列棚からひょこッと顔を出した季三月は麦わら帽子に足首丈まであるロングスカートの半そでワンピースを着ていた。白地に小さな花柄が映え清楚な雰囲気が彼女にぴったりだ、ハッキリ言って可愛すぎる。


 中倉は声を弾ませて言った。


「二人とも超可愛くね? なにこれ? 天使かと思ったよ」


 山根はその言葉に噴き出した。


「ここは天国じゃありませんよ? 南山瀬ですよ」


 山根はおどけてグラビアアイドル風のポーズを決める。


「久しぶり、中倉君。大神も少しは気の利いたセリフ中倉君に教わったら?」


「中倉のセリフを俺が言ったって似合わないだろ? キャラが違うから」


 山根は言った。


「ふふっ、確かに。じゃぁ、行こうか? 此処から無料バス出てるんでしょう?」


「らしいな」


「らしいなって、大神! アンタが言い出しっぺなんだからエスコートぐらいしなさいよ」


 俺は背中を山根に叩かれる。


わりい、携帯で調べれば済むと思ってたから実は何にも知らないんだ」


「どう思う? 季三ちゃん。大神って釣れた魚には餌を与えないタイプね、気を付けなさいよ」


 皆は何となく駅の外に向かって歩き出した。季三月は笑っている、ニコニコと…… でもさっきから一言も言葉を話さない。もしかしてコミュ症だからなのか? 俺は一応彼女が免疫のあるメンバーを揃えたつもりなんだが……。


 俺はスッと季三月の隣に位置取り、彼女に話し掛けた。


「よお、季三月。朝何時に起きたんだ? お前んからだと、ここ迄遠かっただろ?」


「別に、6時半に起きたから何時もと変わらないよ」


「あ、そうなんだ……。朝ごはん食べたの?」


「朝は食べない」


「へ、へーっ。そしたらお腹空いてるだろ、向こうに着いたら何か食うか?」


「お昼まで食べなくていいよ」


 あれ? 何だこれ? これじゃ何時も通りの季三月じゃねえか、俺との距離って急接近してたんじゃ無いのかよ?



 これってやっぱり知り合い以上友達未満ってやつなのか? 落ち着け、落ち着くんだ。まだゴングは鳴っていない、時間はたっぷりあるじゃないか。俺は季三月の隣でそっと拳を握り空を見上げた。

 

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