第26話 引き籠りの体力
「前見て、季三月ちゃん。ボールばっか見ちゃダメ」
「はいっ!」
高校指定のジャージ姿で季三月はフラ付きながら答えた、かれこれ二時間に渡り体を動かし続けている。大丈夫なのか? 運動不足なのに。
「だいぶ良くなったわね、今日はこのくらいにしとこうか?」
「ありがとう山根さん」
季三月はボールを拾い上げ山根に近づいた。
「あれ? 足がガクガクする、上手く歩けないよ」
生まれたての小鹿のような歩き方になった彼女は山根につかまった。
「はあ? 何言ってんだ季三月」
俺は冗談で季三月のふくらはぎに軽く靴の甲をを当て、蹴る素振りをする。
「ひいいいっ!」
声が裏返った季三月はしゃがんで足をさすって俺を睨みつけた。
「大げさだなぁ」
俺は苦笑した。
「ホントに足おかしいの! やめてよね!」
声が大きくなった季三月、本気で怒ってる。
制服に着替えなおした彼女は明らかに歩き方がおかしい、この動き、相当な運動不足のせいだ。
「季三月ちゃん大丈夫?」
山根は彼女を近くのベンチに座らせて足をマッサージした。
俺たちは変な歩き方の季三月を引き連れて駅へ向かう。歩くのがかなり遅い、途中彼女はしゃがみ込んで爪先を伸ばし「イタタタ」と言い出した、足がつっているみたいだ。
「おい、ホントに大丈夫かよ? オンブしてやるか?」
「嫌だよ! 恥ずかしいし」
少し口を尖らせ頬を赤くさせて季三月は、自分の足を手で押さえ俺を見上げながら答えた。
「って言っても、さっきから全然駅に近づいてねえぞ。ほれ」
俺は季三月の前にしゃがみ、両手を後ろに伸ばして「背中に乗れ」と言った。
少し黙っていた季三月は躊躇いつつも俺の背中に乗った。
俺は立ち上がり歩き出した、彼女は小柄とはいえ40キロぐらいは体重がありそうだ、結構重いぞこれは。
俺はバランスを取るために季三月を背中で揺すって背負い直す。
「ひぃ! 変なとこ触らないでよ!」
彼女は俺の体を掴んでいた手を力ませ、悲鳴を上げた。
「えっ? ご、ごめん」
変なとこって何処だよ? 俺は妄想が激しくなりドキドキして来た。やべぇ、季三月の背中に感じる胸の感触と手のひらに感じる腿の感触……落ち着け、落ち着くんだ。
5分後、俺は別の意味でドキドキしていた。重い……息が切れる、「大神、もういいよ、苦しそうだし」
季三月は俺の背中から降り、屈伸をしてから歩き出した。
「少し良くなったよ大神」
彼女は疲れている俺の背中にそっと手を当て「大丈夫?」と逆に心配して来た。
オンブの感触よりも俺は季三月の背中タッチにドキッとしてしまった、こんなに優しく女子に触られたことねえし。
「顔赤いよ大神。私、重くて苦しかった?」
「そんな訳ねーだろ」
俺は強がってみせる。
「か、回復したなら早く駅に行こうぜ」
クソっ、俺はなに季三月に触られたぐらいで慌ててんだよ? 俺ってこんなに女耐性無かったっけ……。
「ふーん?」
山根が俺の顔をわざとらしく覗き込んでニヤついている、見透かされているようだ。
「どうしたの? 山根さん」
季三月は不思議そうに山根を見ている。
「大神見てると面白くて」
「面白い? 何が?」
「大神に聞いてみたら?」
俺は季三月に心を乱されたのを悟られる前に駅に走り出した。
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