単位からは逃げられない
第25話 コーチ
「球技大会やだなぁ」
昼休みの図書室、季三月は窓の外を頬杖を付きながら何時にも増して弱々しく呟いた。
俺はテンションの低い季三月に聞いた。
「何でだよ?」
季三月と俺との距離は映画鑑賞以来少しだけ縮まったのか、彼女は俺が図書室に居座っても逃げなくなっていた。
「だって運動苦手だもん」
いつもの季三月なら学校を休んでやり過ごすのだが、休み過ぎの彼女は体育の授業扱いになる球技大会は休めない、休めば留年が現実味を帯びてくる。
「種目は何にしたんだっけ?」
「サッカーだよ」
「え? 意外だな……何か季三月なら卓球とか似合いそうだから」
「無理だよ、あんな反射神経の競技。サッカーなら走るだけだし」
「走るってだけって言うけど季三月、お前持久力無いだろ?」
「あっ! そうだった……どうしよう、皆に迷惑かけたら……団体競技にしなきゃよかった、……お腹痛くなって来たよ」
暗い顔の季三月、たかが球技大会で落ち込むなよ、まだ始まってもいないのに。しかも女子サッカーなら競技経験者なんて殆どいないだろうから出来なくて当たり前、少し練習すれば何とかなる筈だ。
「今日から練習しようぜ季三月、俺が付き合ってやるよ」
「練習ってどんな?」
口を尖らせて若干拗ねた感じの季三月は俺をジト目で見ている。
「いいコーチが居るんだ」
◇ ◇ ◆
「あなたが大神の彼女の季三月さん?」
「ち、違います。大神の彼女では無い季三月です」
山根は俺の顔を見て吹き出して言った。
「否定されてるけど、大神?」
俺は力なく笑って言った。
「知り合いの季三月彩子さんです」
高校近くの公園、芝のグラウンドの中央に三人は集まっていた。此処はボール使用が許されている数少ない公園、しかも平日夕方なら予約されていないのでほぼ貸し切り状態だ。山根に俺は季三月を正式に紹介した。スポーツ万能の元テニス女子である彼女は季三月のコーチにピッタリだ、人見知りもしないし人当たりも柔らかい。
山根は季三月の体つきを眺めながら言った。
「即席でサッカーが上手くなるか……ボールに慣れて、走れること、後は……」
彼女は公園の芝生の上で腕組みをしながら空を見上げる。
「女子サッカー? ……きっと未経験者ばかり……」
山根は何か思い付いたのかハッとして言った。
「季三月さん、オフサイドって知ってる?」
「オフサイド? 何ですかそれ?」
満足げに喜びを噛み締める山根、何なんだよ? 勿体ぶりやがって。
「勝ったわ! 素人レベルの出場者には意味不明なルール、それを逆手に取る!」
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