第22話 和解

 俺は季三月家の玄関に通され、彼女のお母さんに言われるまま静かに待っててと言われ、三和土に立ち尽くす。


 お母さんは居間のドアを閉め、俺を玄関に一人にした。


 いや……この展開は望んで無いんだが。


 逆に季三月に悪いし、余計嫌われる気がする。


 物凄く居心地が悪い、まるで飲食店でオーダーを取って貰えない客みたいじゃないか。


 チャッと階段の上からドアの開く静かな音が聞こえた、人の気配を感じる、そーっと動いている気配が……。


 きっと季三月だ、このまま玄関で鉢合わせしたら何とも変な空気になりそうだぞ、どうする?


 先手必勝だ、俺は言った。


「季三月、ごめん、家にまで押しかけて……ただ、朝の事は誤解なんだ」


 階段がミシッと軋んだ、「誤解?」


 季三月の小さい声が聞こえる、姿は見えないが。


「朝、俺の隣にいた山根はバイト先の知り合いなんだ、それで仕事の話をしてたんだ」


「だから?」


「えっ? だからその……山根は彼女じゃ無いから」


「だから何? 大神が誰と付き合っていようが関係ないよ、好きにしたらいいじゃない」


 あーっ、分かんねえ奴だな季三月は! 


「外で話したい、いいか?」 


 俺はドアを開けて有無を言わさず外に出た。


 少し時間をおいてドアノブが動く。


「ちょ、何?」


 季三月がドアを開けて迷惑そうにサンダルに制服の姿で外に出て来た。


「関係ないなら何で朝俺達にゴメンって言って逃げたんだよ?」


「だからそれは、邪魔したかなって……」


「邪魔って何の?」


 言葉に詰まったのか季三月は俺から視線も顔も逸らした。


「俺が好きなのは季三月彩子だけだから」


 季三月は体をピクっとさせて俺の顔を見上げた。彼女の顔が赤い、でも自分の顔も熱くなるのを感じる、心拍数が上がり彼女を抱きしめたくなる。


 季三月はジッと俺を見つめている、コレってまさか……。


 俺は季三月に唇を近づける。 


 彼女は少し後ずさりしてドアに背を付けた、大きな瞳をギュッと閉じて体を強張らせている。


 俺は季三月の肩を掴んだ、その時下腹部に衝撃が走った。彼女の膝が俺のみぞおちにめり込んでいる、奇麗な太ももと白いパンツがチラッと見えた、これはご褒美? な訳あるかっ!


「調子に乗らないでよ! バカ大神!」


 俺は玄関前に咳込みながら倒れ込んだ、息ができねぇ!


「って、ヤバ! 上手く決まり過ぎた? ネットで見ただけだったのに……」 


 季三月はそう言って俺の目の前にしゃがみ込み、アタフタしながら地べたに寝転がる俺の体を揺すった、またスカートの中のパンツがよく見える、これは罰か、ご褒美か。



「大神……色々とゴメン……」


 玄関前に腰掛け、息を整えている俺に季三月が言った。


「気にしないでくれ、じゃ、俺バイト行くから……」


 俺はゆっくりと立ち上がり、力なく彼女に手を振り歩き出した。


 ニ、三十歩進んだところで季三月が後で叫んだ。


「ありがとう、バカ大神! 元気出たよ!」



 いい笑顔だ季三月、その顔が日常になってくれ、それが俺への本当のご褒美だから。

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