第21話 気になる人

 季三月家 彩子自室



「彩子、早退したの?」


 お母さんが私の部屋のドアをノックして言った、それを私は無視する。


「具合が悪いの? ちょっと答えなさい!」


 少しお母さんは怒っているみたい、学校を休み過ぎなのを最近指摘されたばかりだから。


 何で帰って来ちゃったんだろう? 大神のせい? 違う、私に逃げる癖が付いているからだ。


 誘いに乗れば良かったかな? 私はさっきから何度も大神からのスマホのメッセージを眺めている。


 逃げたのは嫌いだから? 別に嫌いって訳じゃ無いけど……何かグイグイ来られると腰が引けちゃうし。


 コンコンとノックする音が強くなる、怒ってる……そんなに怒ったら逆に出られないよ。


 お母さんはため息を付いて階段を降りて行った、どうしよう、たった一人の私の理解者なのに。


 小説なんて書く気分になれない、心が落ち着かないから……私は高校の制服姿のままベッドの上で寝そべり壁を見つめた。


 バカ大神、あんな奴に彼女いたんだ。スラっとしててスポーツ万能って感じだったな、あの人……。


 「関係ない!」


 私はむやみに部屋で叫んだ。


 もう小説なんて貸してあげないから! あの人と楽しんでればいいじゃない!


 大神の事ばっかり……好きなのかな私……そんな訳無い!


 私は枕で自分の頭を連打する。


 その時インターフォンの音が居間から聞こえて来た、私はその音にドキンと体に電気が走ってしまった、勝手に大神が来た気がして。


「はーい」と声が聞こえ、お母さんが廊下をスリッパで歩くパタパタ音が響き、私は耳をそばだてる。


 ドアを開ける音が聞こえ、お母さんは言った。


「あら、大神君? 彩子に会いに来たの?」


 身体がギュッと縮まる感覚を私は覚えた、何で来たの⁉ 心拍数が一気に上がる。


「彩子! 大神君が来てるわよ!」


 お母さんは二階の私の部屋に聞こえるように大きな声で呼んだ。


 呼ばないでよ、会いたくないのに!


「御免なさいね」と言ったお母さんは階段を駆け上がりドアの前で言った。


「紗子、大神君来てるわよ、お話したら?」


「会いたくない! 居ないって言ってよ!」


「あなた、大神君にこの間のお礼言ったんでしょうね? 会いたくないならあなたが自分の口で言いなさい」


 お母さんは一階に下りて行く、「ちょっと待ってよ! お母さんてばっ!」


 どうしよう、こんなのズルいよ……。


「彩子!」


 お母さんがそう叫んたきり一階は静かになった。え? 今どういう状況? 大神は居るの? 居ないの? 私はソワソワして部屋のドアに耳をあてて玄関の音を聞いた。


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