第20話 誤解逃亡

 朝、駅を出て高校に向かう、季三月は登校したかな? 俺は大勢の生徒が歩く歩道で灰色の髪の彼女を探した。


 その時、背後からチョンチョンと俺を突付く感触がした、季三月なのか?


 俺は期待して振り向いた。 


「ヤッホー」


 そこには顔の横で手を振る、昨日職場で見た女子がいた。


「何だ、山根か……」


 俺は落胆して彼女を眺めた。


「何だとは何よ! おはよう、今日バイト入ってるの?」


「ああ、早く慣れたいしな」


「私が手とり足取り教えてあげようか?」


 体を前のめりにして顔を近づけ、山根が言った。


「……いらねえよ」


「大神、今、ちょっとエロい想像したでしょ?」


「す、するかよ!」


 ホントはちょっと想像したけどな。


 ケタケタと笑う山根は言った。


「冗談だって、それより何か買いたい物あるの? バイトするなんて」


 俺は返す言葉に迷い無言で俯いた。


「女か……」


 ふーんと嬉しそうに、今にも詮索しそうな態度で山根は俺を見ている。


「う、うるせーな! 関係ねーだろ?」


 ニヤニヤと山根は俺を眺めた、クソっ! 図星じゃねえか。


 背後から靴音が迫り、誰かが駆け寄る気配がして俺は横を向いた。季三月かよ! お前から近づいてくれるなんて嬉しいぞ。


「大神、これ、前に言ってた小説……えっ?」


 季三月は俺の隣にいる山根に気づき、ハッとした顔をした。


「あの、あの……ゴメン……」


 顔を曇らせた季三月は本を引っ込めて前方へ駆け出した。


「季三月!」


 俺は彼女の呼び止めようと叫んだ、絶対誤解してる、山根の事を。


「なるほど、邪魔して御免ね大神、早く行きなよ」


 そう言って山根は俺の背中を小突いた。


 朝から最悪な展開だ、季三月から声を掛けてくれたのに……早く誤解を解かないと。


 俺は季三月を追いかけたがコミュ症の逃げ足は速い、もう生徒の波に潜りやがった。


 彼女は教室には居なかった、朝のホームルームにも出席せずに一時間目が始まる寸前に姿を現し席に着く。


 確実に季三月は俺から距離を取っている、これでは話しかける事も出来やしない。


 一時間目が終わり、俺は直ぐに廊下に逃げる季三月を追った、だけど彼女は一目散に女子トイレに入り俺を寄せ付けない。


 駄目か、俺はスマホでメッセージを送ろうと文字を書き込もうとした、だけど浮かばない、山根が彼女じゃ無いと送信したところで、季三月も彼女じゃ無い訳で……俺と季三月の関係は何とも微妙な知り合い以上友達未満だから。


 あー、どうしたら……俺は勢いだけで季三月にメッセージを送った。


『昼飯一緒に食わないか?』と。


 うわっ! 俺は何でこんなコト書いたんだよ! 意味分かんねー。



 その日の昼休み、季三月は帰宅していた。


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