第16話 友達

 ホームに列車が停まりドアが開いた、季三月が先にホームに降りたので俺は走って季三月の前に回り込んで、頼むと手を合わせる。若干俺を睨んだ季三月は、俺を避けようと動いたので、俺もその動きに合わせる。また逆に動く季三月、俺も逆に動く。


 大きくため息を付いて、腰に手を当ててうな垂れた彼女は、顔を上げ視線を逸らしたまま少し口を尖らせて言った。


「少しだけだからね」


「ほ、本当か?」


 俺は嬉しさのあまり彼女を抱きしめてグルグル回転したい衝動に駆られた、実際そんな事をしたらキレられるだろうが。


「行くの? 行かないの?」


「行くに決まってんだろ!」


 俺は季三月に手を差し伸べる。


 その手を敢えて無視して季三月は俺を通り越し、改札を潜った。



 ◇     ◆     ◇



 静まり返った書店にクラッシック音楽が流れ、俺達は地平線まで続きそうな本棚の列の中を歩いている。


「32のA、ここらへん」


 季三月は俺を【ファンタジー小説日本人作家】の本棚に案内した、彼女が言うには外国人作家の本は登場人物の名前を覚えるのが疲れるとの事だ。カタカナの登場人物が多ければ多いほどそれが誰だったのか理解するのに読み返したり登場人物欄を捲り確認するのに骨が折れるとか、確かにそれは一理あるし、せっかく小説の世界観を堪能している時にはそんな事をしていたら覚めてしまう。


「この作家さんオススメ、あと、これとか」


 いくつかの本を指差し季三月は小さい声で言った。


 俺はその本を棚から抜き取り、初めから少し読み始めた。


「じゃ、あとで」


 季三月はそう言って手首で軽く手を振り、本棚の海に消えた。


 良かった、『じゃ、帰る』じゃなくて。


 暫く色々な本を読んでみたが、いまいちパッとしない、やっぱりこのジャンルは自分には馴染まないのだろうか? 俺は本を棚に戻し、SFのコーナーに移動した。


 ここには結構自分向きな本が揃っていた、一冊気に入った小説を見つけてはみたが新刊だから高い、1700円もしやがる。


 うーん、どうしたらいいのか分からなくなってきた、他のコーナーに行ってみるか……。


 そういえば季三月、どこ行った? まあ、物色してたらそのうち会えるか。


 暫く店内をうろついた俺は足が疲れてきた、携帯で時間を確認するともう5時半? そんなに経ったんだ、まだ、買う本決まって無いのに……取り敢えず季三月探すか。



 いない、何処にもいない、店内を10分以上探し回ったが彼女は見つからない、まさか帰ったのか? 季三月ならあり得るかも知れない。


 焦っている俺の背中をポンポンと叩かれ、振り向くと季三月が立っていた。


「凄い探したんだけど!」


 小さいが怒気がこもった声で彼女が睨んだ。


わりい、俺もスゲー探してた」


「勝手に移動しないでよ、ここ広いんだから」


 連絡が取れればこんな事には……。


「そうだ季三月、連絡先交換しないか?」


「えっ? いいよそんなの」


「今だって連絡取れればなんてことは無かっただろ?」


「それはそうだけど……もう必要ないし」


「そんな事言うなよ、友達だろ?」


「は? トモダチ?」



 季三月は口をワナワナさせながら頬を紅潮させた。


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