二人の距離
第15話 誘いたい
「な、なあ、季三月、帰りに遊びに行かねえか?」
俺は放課後彼女を誘った、緊張で少し声が上ずって格好悪いぞ。
季三月は自分の席から立ち上がり、俺を無言で暫く見つめてから言った。
「いや、いい」
彼女はカバンを肩にかけ、逃げるように廊下を早足で歩き出した。
俺は季三月の後を追いかけて言った。
「何か予定あるの?」
「無いけど」
季三月とは駅の乗り換え迄は帰りのルートは一緒だ、乗り換え駅周辺は街がデカいから遊び場所には困らない。
「歩くの速いな、季三月は」
「速くない、いつもこれくらい」
くっ! 人を寄せ付けないオーラが凄い、何か、何か話題を……。
「季三月、三笠新城駅のデカい本屋あるだろ、そこに一緒に行かないか? 面白い小説探すの手伝ってくれたら助かるんだけど……」
「面白い? うーん、それは人それぞれだし」
唇を人差し指で触り、歩く速度を落とした季三月。反応有り! 何とか話しを続けるんだ!
「オススメとか無いかな?」
「どんなジャンルが好きなの? 大神」
彼女は廊下で立ち止まり、真っ直ぐ俺を見据えて聞いて来た。
「うぇ? ええと、オールジャンルだよ」
「オールジャンル? 何か適当くさい」
季三月は少し癇に障ったのかツンとした態度で階段を駆け下り、傍に俺が居ないかの如く玄関で靴を履き替えて下校し始めた。
「うわっ、ごめんごめん。俺、SFが好きかな」
俺は焦って靴を履き替え、地面につま先を叩きつけながら踵を靴に仕舞い、季三月を追った。
「SF? 読まないから分からない」
「そうなのか? な、なら新ジャンル開拓するから……頼むよ季三月」
歩きを加速させる季三月、制服のスカートをなびかせ周りの生徒を小さい体でどんどん追い越して行く。
「季三月はどんな本読むの?」
「ファンタジー、現実逃避出来るから。それと…………何でもない」
言うのを躊躇った彼女は少し俯いた。
「恋愛だろ? 書いてるもんな」
無言の季三月はすぐに分かるほど顔を赤く染めた、耳まで真っ赤で可愛いぞ。
「二人の距離感……そこを書きたい」
「俺たちの距離はどれくらいかな?」
「1キロ」
即答する季三月。
「遠いなぁ、季三月が見えねえ」
とは言ったものの、その距離は案外近い気がした。彼女の1キロと俺の1キロが同等なのかは分からないが。ただ、二人の距離が縮まっているのは確かだ、初めは地平線よりも遠かったから。
そうこうしているうちに駅に着き、改札を抜けると季三月はブルートゥースイアホンを耳に嵌めスマホで音楽を聞き始めた、暗にもう話しかけないでと自分に硬い殻を被るように。
列車に揺られること二駅、乗換駅が迫る、イコール別れが迫っているということだ。季三月は俺の隣で吊り革につかまっている、イアホンで会話を拒絶しているかのように。でも案外周りの音は耳に入っている筈だ、最後にもう一回だけ誘おう。
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