第14話 彼女の気持ち

 俺に小さく笑顔で手を振ってくれた季三月……。


 朝の教室で俺は何度も何度もその映像を脳内でリプレイする。


「大神、何ニヤついてるんだよ?」


 中倉がどうせ季三月絡みだろ? と言い出しそうに机に座っている俺の肩を抱いて早く言えと満面の笑顔を近づける。


「季三月が俺に向かって笑ったんだ」


「それで? 手でも握ったか?」


「いや、何も……」


 俺は昨日の季三月とのやり取りを中倉にすべて教えた。


 中倉は言った。


「やべぇわ、それ。たどたどしい単語のやり取りの後、中華まんを奢られ、別れの挨拶で笑顔を向けられただと?」


 中倉は苦笑して俺の背中をバンバン叩いて更に続けて言った。


「それ、脈無しだろ、アイツただ奢られたから、お返ししたかっただけだって!」


 彼の言葉に俺は頭から冷水を浴びせられた。そうかも知れない、季三月は律儀で奢られっ放しではいられないタチなのかも知れない。


 俺がのぼせてただけなのか? ベンチで饅頭一緒に食って勝手にデートした気になって、会話もほぼ無しで……昨日の季三月との会話時間何秒だよ! トータルで30秒も話しただろうか……。


 俺はガックリと机に突っ伏した。


「そう気を落とすな、一応会えたんだから嫌われてはいないだろ」


 中倉はそう言って俺の肩をポンポンと軽く叩いて慰める。


 ため息を付きながら俺は机から顔を上げると教室に季三月が入って来た。彼女は俺達を一瞥すると何も無かったかのように自分の席へ着いた。


「俺が間を取り持ってやろうか?」


 季三月に近づこうとする中倉の制服を俺は必死に掴んで小声で言った。


「いいって! どうせ反応薄いから!」


 中倉に頼むくらいなら自分で話す、って言っても何を? ま、先ずは昨日のお礼を言って、そしたらきっと季三月は『うん』って言って、だからそのあと俺は『登校したんだっ?』て聞いて多分『うん』って答える、ダメだ『うん』しか言わない奴に、どう会話のキャッチボールをしろって言うんだ。


 俺は頭を掻きむしりながら会話の展開を妄想していると、中倉の声が聞こえた。


「季三月は大神の事どう思ってるんだ?」


 あーっ⁉ 何、聞いてんだよお前! 直球過ぎるだろ!


「え? 何とも思って無いけど」


 自分の席に座っている彼女はキョトンとして、傍に立つ中倉を見上げて答えた。


 やまびこの様に俺の頭の中に反響するその言葉。


 

 知ってた、だから聞きたくなかったんだ。

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