第13話 居留守
呼び鈴を鳴らす、これで20回目だ。
俺は季三月の家に着き数回呼び鈴を押した時、二階の窓のカーテンが動いたのを見逃さなかった。
居留守だ、絶対に季三月は家に居る、でも彼女は姿を現さない。
「なあ、季三月! 居るんだろ? 明日は学校来いよ」
俺はカーテンが揺れた二階の窓に向かって叫んだ。
反応無しか、もう会いたくないって事かな? 余りしつこくするのも何だし帰るか。
俺は季三月家の門を出て駅へ向かって歩き出した。
背後でカチャっと音が聞こえ、何気に振り返ると季三月彩子が俺の後ろに落ち着きなく手を動かして佇んでいた。
「季三月……」
「大きな声出さないで……恥ずかしいから」
彼女は俺と一瞬だけ視線を合わすと、直ぐに逸らして自分の灰色の髪の毛先をねじっている。
「ああ、悪かった。でかい声出してごめんな」
季三月彩子に会いたくて、話したくてわざわざ此処に足を運んだのに実際会うと何を話していいのか分からなくなる、彼女は黒のワンピースに白い長袖シャツを着ていた、今日はコスプレって気分ではないらしい、それとも俺が知らないだけで何かのキャラだったりするのだろうか?
季三月は俺と話すのを拒否するかのように地面を見ている。
居ても立っても居られなくなった俺は駅に歩みを進めた。
「帰るの?」
その言葉に俺の体に電気が走った気がした、それって帰らないでって事か?
俺は立ち止まり、「どうした?」と彼女に言った。
どうしたって何だよ、もっと気の利いた言葉一つも言えねえのか俺は。
季三月はポツリと言った。
「中華まん」
「は?」
「奢る」
「え? 何?」
「アイスのお返し……神木町駅横に美味しいのあるから……」
季三月は家のドアに鍵をかけ、俺の横に小走りで駆け寄った。いい香りがする、香水を付けるタイプでは無いだろうから石鹸とかシャンプーの香りか?
「こっち」
柔らかそうな指で前方を指差す季三月、俺の知っている帰り道じゃないけど、地元民が使う最短ルートなのだろうか。
スタスタと歩く彼女の後を俺は無言でついて行く、途中ここは道かと思うほど狭い路地をジグザクに歩いて気が付けば駅裏に出ていた。何だこのルート、ネコなのか? 季三月は。
気が付くと目の前にセイロが積み重なったガラス張りの店があった、湯気が勢いよく風になびき丁度腹が減って来て、俺と季三月はその店の前に立った。
「黒餡ひとつと……」
そう言って彼女は俺を眺める。季三月は言葉が足りない、注文しろって事か?
「豚肉ひとつ」
何だか俺も季三月が移って来た、でもまあ、今日は彼女のペースに任せよう。
アツアツの饅頭を店員から受け取った彼女はそれを一個俺に渡した。
「
俺の反応を見て一瞬満足そうな顔をした彼女は店横の赤い清涼飲料水のロゴが入った樹脂製のベンチに座ったので、俺もその隣に座った。
「ありがとな、季三月」
俺は軽く饅頭を彼女に掲げ、お礼を言った。
「うん」
早速俺は饅頭を頬張った。
「美味い! 結構いけるぞこれ」
俺はバクバクとその味を楽しんでいたが、季三月は饅頭を半分に割ったまま動かない。
「どうした季三月、食わねえのか?」
「熱いから冷ましてる」
やっぱり季三月はネコだ。
「あげる」
餡まんの半分を俺に渡した季三月は残り半分にフーフーと息を吹きかけてから一口かじった。
「いいのか? 貰って」
「いい、大きいから」
終始無言で饅頭を食べていた季三月はそれを食べ終わると指に着いた餡をペロッと舐めて立ち上がり、「私、帰る。明日は学校行くから」と言って俺を眺めた。
「ああ、じゃあな。また明日」
俺もベンチから立ち上がり少し暗くなって来た空の下で彼女に別れを告げる。
「うん」
季三月は小さく言葉を発して俺に背を向けて歩き出し、10歩ほど歩いた彼女は振り返って俺に小さく手首を振って笑った。
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