第26話
「行ってくるよ」
「ええ、無事に帰ってくるのをお待ちしております」
再び、王を纏ったリチャードは朝から昼に差し掛かる頃、出陣しようとしていた。
私はそんなリチャードを見送る。
リチャードの顔からは暗さと迷いが無くなっていた。
エドワード軍は強かった。
しかし、利には理を。
そもそも、大義といえるような理由なく侵攻してきたエドワード軍。
エドワード軍に利が味方したように、ザクセンブルク公国には理が味方した。
エドワード軍の理由なき侵攻を批難し、ザクセンブルク公国に恩義があった周辺諸国が旗を上げた。
それによって風向きが変わった。
・・・名目上はそうだったし、戦に疎い私はそれを当時は信じていたけれど、後にそれも利も絡んでいたことを私は大臣に教えられた。その大臣の考えも私は理解したけれど、やっぱり人が動くのは最後は心、ザクセンブルク前国王やリチャードの今までの善い行いがあったからこそ、みんなが協力してくれたんだと私は感じた。
盛り返したザクセンブルク公国率いるリチャード軍は盛り返し、エドワード軍を押し返し始めた。
旗色が悪いと感じたエドワード軍を陰で支援していた国々も援助をすぐさま止めると、リチャード軍が優勢になり、エドワード軍はすぐさま逃げ帰った。
追撃すればエドワード軍を殲滅できたかもしれないけれど、リチャードはそんな成果よりも兵士たちの命を尊んだ。禍根を残すことだと、臣下や協力国の王たちにも言われたけれど、リチャードは首を縦に振らなかった。優しいリチャードらしい決断だと思って、発言権がない私は陰ながらそれを応援した。
リチャードは戦が終わり、被害の復興に努めた。
経済大国として多くの蓄えがあったといっても、軍事へ資金も食料も使ってかなり寂しくなった蓄えだったけれど、リチャードは被害地へ支援を行った。嬉しそうに感謝している国民の顔がとても印象的だったのを私は覚えている。
ザクセンブルク公国が善政に努めている頃、私の故郷ワルタイト王国は再び軍事に力を注ぐため、多額の税をかけ民に圧政を強いている知らせを耳にした。戦でも多くの若者の命を落とし、その後も一息つく間もなく、過酷な労働を強いられている。はるか遠くにいる友人たちのことを想うと、私は心配で泣いてしまうこともあったけれど、リチャードは優しく慰めてくれた。
闘いは何も私たちの国だけで起きているわけではない。
戦乱の世。
やられっぱなしでいれば、なめられる・・・とまではいかなくても、他国へのけん制や威信の意味でもすべき世の中。
リチャードもワルタイトの王国の民のため、理由もなく侵攻を受け奪われた多くのザクセンブルク公国の民のため、そしてお父様のために挙兵したい気持ちがありながらも、彼の優しさがそれを阻んだ。
賛否があったけれど、それがザクセンブルク公国のリチャード王なのだ。
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