第27話
サンクヴェロナ草原
「はっはっはっ、どうしたエドワード。こんなものか」
元気な少年が大声で罵る。
ザクセンブルクの旗を掲げた兵士たちはエドワード軍を蹴散らしていく。
「くっ・・・なぜだ!?逃げるなっ、戦えっ!!!押し返すんだぁ!!!」
しわが多くなり、白髪交じりでやつれた顔をしているエドワードが大声を出すけれど、兵士たちは圧倒的戦力差にどんどん逃げてしまう。
「ふっ、あなたの言葉には重みがない。あなたには何もないのですよっ、エドワード」
リチャードに似ているけれど、目つきは私に少し似て元気はつらつなルイ。
そう、この戦場で一番輝いている少年は私とリチャードの子だ。
リチャードが王になってから15年後。
愛し合ったあの日、授かったルイは軍神に愛されている。
もしかしたら、あの日を境に周辺諸国が協力してくれたのも、ルイが私のこのお腹に宿ったからかもしれない。
「さぁ、返してもらおうじゃないか、エドワードっ!我愛しの母君から奪ったものをすべて、利子をつけてっ!!」
馬に乗って、本陣へ単身で向かうルイ。
本陣と言っても、忠義を尽くすに値しないエドワードの周りには兵士らしい兵士はおらず、甘い汁を吸いあったような脂ののったおじさんたちしかいなかった。
「ひいいいっ」
我先に、なんなら自分が助かるために、人を転ばして逃げようとする貴族たち。エドワードも必死に逃げようとする。しかし、ルイの速さに勝てるわけもなく、あっという間に距離を縮められるエドワード。
「覚悟っ!!!」
「ぐははっ!!!」
切られたエドワードが倒れ、痙攣を起こしながら、死に抗おうとするけれど、終にこと切れた。
「我っ、エドワードを討ち取ったりっ!!!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」」」」
ザクセンブルク公国の兵士たちが勝ち鬨を上げる。
エドワード軍の兵士たちはその場に座り込んだり、武器を捨てて投降した。
「やったね・・・アリア」
「・・・うん」
私はようやく故郷に帰り、お父様とお母様に会えることが嬉しくて涙が出た。
そんな私の背中をリチャードが撫でて、優しく抱きしめてくれる。
「母上ーーーっ!!」
私がリチャードの胸で泣いていると、ルイが嬉しそうに馬を走らせて帰ってきた。
「ルイっ」
私とリチャードは愛する息子を迎えた。
愛しの希望。
私の大切な存在が、もう二度と戻らないと思っていた大切な思い出たちを取り戻してくれた。
15年前のエドワードの大義無き侵略行為。
自分勝手で傲慢、そして戦好きの彼は女性にモテることはなく、権力でどうにかしようにも上手くは行かなかった。さらに侵略失敗の時に逃げ帰ったときに、リチャードの連合国がたいそう怖かったようで、帰国後女性を見ても、ザクセンブルク公国のスパイじゃないかと疑い、最後まで心を開ける相手は見つけることができなかった。
そして、誰も信用していないエドワードは、疑えば平気で忠臣であった大臣なども平気でその場で殺したりしており、そんな彼を信用する者はほとんどいなくなり、死ぬ間際も薄っぺらい人間関係の家臣しかおらず、誰も王であるエドワードを庇うものはいなかった。
自ら招いた不幸で最後まで彼は独りで生涯を終えることとなった。
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