第23話

 リチャードは悲しそうだった。

 

 本当は父親であるザクセンブルク国王の葬儀を盛大に行いたかっただろうが、エドワード王子率いるワルタイト王国の侵略は止まらない。リチャードは大臣と共に防衛戦線を整える必要があった。

 リチャードが時間がないのもあったし、私自身セントリウスが亡くなったこともありふさぎ込み気味だったので、あまり会話することも無かった。


 これが、お父様が反対していた戦争。


 王宮の中にいた私は戦争が始まっても、どこか蚊帳の外で実感がなかったけれど、リチャードの父であるザクセンブルク国王と私たちの執事であり家族だったセントリウスの死をもって戦争の悲惨さを知った。


 エドワード王子はザクセンブルク国王の死亡を聞いて喜び、目の前にぶらさがった人参に後先考えず攻撃を開始し、戦場は苛烈を極めた。


 ザクセンブルク国王の崩御に加え、ザクセンブルク軍は前線を後退させたことで、地の利のアドバンテージを放棄し、殿しんがりを任された部隊はほぼ壊滅。かなり被害を被ったもののリチャードと大臣の采配と兵士の奮闘で戦はなんとか拮抗していた。


 戦には多大な費用を伴う。その上遠征しているエドワード王子たちの費用は防衛しているリチャード達以上。

 すぐに補給線は長くなっており、食料はすぐに尽きると思っていた。


 ・・・しかし、食料は尽きなかった。

 エドワード王子のしたたかさはもちろん、周辺諸国の中にもしたたかな国がおり、どちらが話を持ち掛けたのかはわからないけれど、利益に聡い国々もエドワード王子に陰ながらの援助をし始めた。


 ザクセンブルク公国は、建国以来の最大の危機になった。

 

「リチャード・・・」


「ん、あぁ・・・アリアか・・・」


 私は夜中リチャードの元へと訪れた。

 昼間のリチャードを捕まえることなんて、ほぼ無理に等しい。多くの兵士や文官が代わる代わる報告に来て、処理に追われていた。夜だって早く寝てほしいけれど、灯りはこの城の中で一番最後に消えることが多かった。


「身体は・・・大丈夫?」


 今までにない緊張感。いつも安心感を与えてくれていたリチャードと話すのにこんなにピリピリするのは初めてで、リチャードに話しかけるのに言葉を選ぶ日が来るとは思っていなかった。

 

「あぁ、大丈夫だよ。それよりも・・・この国だ」


 自分よりも国を心配するリチャード。

 本来好戦的ではないリチャードが争いについて考えるというのは本当に痛ましい。リチャードはやつれてきていた。そして、私に視線を向ける余裕もないようだ。


 バサッ


 リチャードの背後から私は抱きしめた。

 さすがのリチャードもびっくりして、動きを止める。


「ねぇ、身体を大事にして・・・」


「だけど・・・」


「私には戦の知識は全くないけれど、こっ、こんなんじゃ、いい考えは浮かばないわよ」


 いつも通りを心掛けて話そうとするけれど、声が緊張で少し詰まる。


「戦のことは将軍に任せているけれど、それでもボクがやらなければいけないことは山ほどある」


 戦のことは将軍が指揮を執っているということも知らなかった私。きっと、的外れなことしか言えないのかもしれない。ともすれば、私の言葉なんて彼の睡眠を妨げるだけでしかない。


 スーーーッ


 気持ちを落ち着けようと鼻で大きく息を吸う。


(ん?)


 クンクンッ


「ねぇ、リチャード・・・お風呂一緒に入ろ」

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