第4話 スクール2

 親切にもほどがある。

 Aさんはスクールの初回に付き添ってくれるという。


 何事もそうだが経験者の紹介というのはとてもありがたい。

 Aさんがいなければ催眠術はテレビで楽しむものだっただろう。


 表参道で待ち合わせ。

 (わかるひとにはわかる)


 Aさんの案内でスクールに向かう。

 緊張していたのはよく覚えている。


 スクールはマンションの一室にあった。

 Aさんは到着すると誰かに気軽な感じで挨拶する。

 

 先生だった。

 

 面食らった。

 催眠術というスクールでこんな関係を築けるものなのか?


 6万円を渡す。


 最初にレジュメを渡される。

 (さっき催眠術の資料を漁っていたら出てきた。よく残ってたなと思う)


 2ページの文章が長く感じる、これを全部覚えるの?ってのが感想。


 スクールは初級~上級は合同で行われる。

 開催時間の前半が初級、中盤が中級、後半が上級となっていた。

 初級コースで受講していても後半の上級コースまで参加していてもOK。

 要は被験者としての参加はいいけど実践をしてはダメってこと。


 ☆ ☆


 今思えば初級でできることなんてほとんどないが、催眠術を学んでいる方々と間近で切磋琢磨できるのは大きなメリットだろう。

 デメリットは催眠術の被験者が生徒だということ。


 催眠術を学ぶ上で1番必要なのは素質のある被験者、深トランス(深いレベルの催眠状態)に誘導できる被験者だ。

 自分の行った誘導で催眠状態になりどのように深化するか、確実に確かめられることが必要なのだ。

 2番目に被験者からの印象、3番目に知識(座学)、4番目に誘導の技術力、5番目に催眠術師としての素質だろう。


 ☆ ☆


 そこにいたのは先生と2人の生徒さんだった。

 1人は中級、1人は上級で受講している方だった。

 

 スクールだからお金を払ったら講義なりがあると思っていた。

 が、先生からは何もなかった。

 いきなり渡されたテキストを読んで実践するってことらしい。

 なかなかのスパルタである。

 恐らく積極的に質問できる人が多いのだろう。


 私は行動は起こすがコミュニケーションが苦手だ。

 経験則で初見ではニコニコして受け身になる。

 人畜無害を装うのである。

 どんな所でもかなりの確率で理解をして友好的になる方が現れるのを知っているからだ。


 その場にいた生徒さんが気を利かせて催眠術の話題を振ってくれた。

 確か会話のとっかかりについてだったと思う。

 先輩としていいアドバイスをしてくれた。


 催眠術の話をする前にワンクッション置いて気を引くとのこと。

 マジックをするらしいが、がっつりマジックをすると催眠術まで時間がかかりすぎるので、簡単なものから入って催眠術の話をふるのだそうだ。

 そしてその簡単なやつを見せてくれるという。


 「ここにペンとコップとお菓子があります。わかりますか?」


 「はい」


 「ではあなたの目を見せてください」

 

 私の目をのぞき込みます。

 真剣に見られると色んな気がなくてもちょっとドキッとします。


 「わかりました」


 と言って携帯をいじります。


 「ではこのペンとコップとお菓子から1つを選んでください」


 「はい。う~ん。じゃあペンで!」


 ペンを選ぶ。


 「では私の携帯を見てください」


 「えっ?いいんですか?」


 「ええどうぞ」


 と携帯を渡してくる。

 携帯を見ると『ペン』と書いてあった。


 「ほらあなたが選ぶのは分かってましたよ?」


 「!!!???」


 私はとても驚いていたらしい。

 みんながニヤニヤしている。


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