第4話 にたもの同士
5日目の朝、佐々木は覚悟を決めて、いつもの時間にターミナルに向かった。もう、自分の気持ちからも彼女の気持ちからも逃げたくなかった。今日まで時間をずらして登校していたので、それまでの三希の姿を意識的に見ていたわけではなかったから、ターミナルでバスを待つ三希の姿を今日、初めて意識して見ることになった。遠くから見る今朝の三希の後ろ姿はとても元気そうには見えない。下を向いているし、1人ポツンとしている。いつもこんな感じだったのだろうか?
佐々木が勝手に抱く、いつもの三希の印象は誰か友達と楽しそうに話しをしている明るい印象があったが、いつもこんな感じなのかな?こんな感じだったら、自分の中でも印象がなくて、あの日、階段下で会った時もきっと分からなかったと思うけど・・と三希の背中を見ながら漠然と考えて思いを巡らせていた。
佐々木は三希への答えを準備していなかった。話をして三希の言葉で自分の問いに対する答えを聞いてみたいと思っていた。本当に自分でいいのか?と。だから、自分の性格に自信が無い佐々木は、足取りもどこか重かった。
(もし、自分の思い過ごしで軽いノリだったらどうしよう?断っても、OKの返事でも、「あ、そう」みたいな感じだったら、こんなに悩んでアホらしいよな・・)
などと考えたりもした。
しかし、佐々木が三希の手紙から感じた、三希の気持ちを「守りたい」と思う「自分の想い」と、三希が「佐々木のバスケが好きだ」と佐々木を想う「三希の気持ち」に何か違いはあるのだろうか?という事も考えていた。
嫌いだったら勿論、付き合わない。でも、知らないにしても、自分への想いを知って、一番自分が思ってほしいことを彼女は自分へ向けてくれた。それだけで今は充分なのではないだろうか?
それでも、佐々木は、彼女とキチンと話をしたい、確かめたい、と強く感じていた。そうでなければ、佐々木自身が不安なのだ。逃げずに向かおう、と決めて登校した。
三希は下を向いてうつろだった。佐々木の存在に全く気付いていなかった。
「もう、佐々木君は来ない」
と諦めていたからだ。
三希たちの高校行きのバスがターミナルの停留所に到着したので、三希は何も考えずに来たバスに乗って、いつもの席に座った。チラッといつも佐々木が座る一番後ろの席を左後方に見て、当然、待ち人が座っていないことを確認してから、「はぁ」とため息を漏らしながら、やはり、いつもの佐々木が座る席の1列前の佐々木とは反対側の席に座った。そうすると、左に座る佳子越しに寝ている佐々木が見えていたからだ。
すると、その三希の席の横を見おぼえのある影が通り過ぎた。一瞬三希は見間違いかと思ったが、顔を上げて確かめた。佐々木である。佐々木は三希を見て、会釈をしてから、いつもの一番後ろの席に腰を下ろした。
三希は振り返って、再度、佐々木であることを確認した。「今日が失恋記念日か・・・」と心で呟き、目では「今日、答えをお願いします・・」という想いをこめて、佐々木に会釈をした。
佐々木は、自分が待たせたことで、三希の元気がなくなっている事など、想像すらしていなく、三希の会釈の意味は理解していたので「バスを降りた後で答える」と、無言の思いを相槌で告げた。
2つ先の停留所から佳子が乗ってきて、佐々木の姿を見て取ると、興奮しながら口パクで聞いてきた。
「みっちゃん、答えは?」
「まだなの・・・」
「え?まだ?じゃあ、学校に着いてからかな?」
「分からない・・でも、そんな感じがするよ。今日が失恋記念日だね・・」
佳子との会話もその日はそれが最後でずっと、二人で黙ったままだった。校門前の停留所に近づいたとき、佳子が
「みっちゃん、私はさっさと先に降りるから、ちゃんと返事を聞きなね。佐々木君と二人で最後に降りるんだよ。いいね?」
と、アドバイスを残して、席を立ち、バスが校門前に到着すると、本当に三希を置いてどんどん先に降りて、校門めがけて行ってしまった。
佐々木は内心ほっとした。このまま佳子が一緒に居たら、話が出来ない、と思ったからだ。
三希が降りて、佐々木が続いた。降りた後、横断歩道を渡らなくてはいけないのだが、三希はあえて渡らず、立ち止まって佐々木を見上げた。
「佐々木君、今日、返事くれる?」
勇気を振り絞って聞いた。佐々木も横断歩道を渡らず、三希の横に並んで立った。三希は真っすぐに佐々木を見上げて見つめた。こんな風に彼を見つめることはもう2度とないと思うと涙が出そうだった。でも、決して泣かずにキチンと彼の答えを全身で聞こう、と決心した。
背が高くて、何て優しい目で人を見るんだろう?この人に寄りかかってみたい。年下だけど、すがりつきたい。そんな気持ちになっていた。
佐々木は三希の真っすぐな瞳に吸い込まれそうになっていた。彼女の瞳には1点の曇りもない。自分の事を本当に好きでいてくれているんだ、と確信めいたことを感じていた。
「俺でいいのかな?」
ようやく言葉に出来た。5日間、頭の中でグルグル回っていた言葉だった。
「え?」
一瞬、何を問われているのか三希は分からなかった。
「俺なんかでいいのかなぁ?ってずっと考えていて・・・」
「え?それで、いつものバスに乗ってくれなかったの?」
「うん」
「うそ・・・私はてっきり嫌われたんだって思って・・一生懸命諦めなきゃ、って。ずっとずっと諦める方法を考えていたのに・・・そしたら、今日は佐々木君が乗ってきたから、どうしよう?失恋記念日なんだな、って・・・覚悟決めて諦めなくちゃ、って、落ち込んでたのに・・・うそでしょ?」
必死に話す三希を見て、佐々木は少し、クスッと笑った。
「ほんと。俺でいいのかなって思っていたから。それをちゃんと言葉で聞いて確かめよう、って思ってたんだ。でも・・会ったら、どうでもよくなっちゃった。宜しくお願いします」
「え?いいの?お付き合いしてくれるの?」
「うん。宜しく」
佐々木は、少しはにかみながら笑顔で答えた。三希が初めて見る佐々木の表情だった。
三希は、力が抜けてその場に座り込んでしまった。そして、佐々木を見上げながら、
「もぉ!!ほんっとぉに死にそうなくらい落ち込んだんだからね!悩んだのよ、すごく!もぉ!」
佐々木を責めるように言って、気を取り直して立ち上がった。
言いながらも、佐々木の腕をバシバシと叩いてしまった。佐々木と出会って、初めての会話であることも忘れていた。
既に夏服へ衣替えしていたので、長袖の白のシャツを腕まくりしていた佐々木の腕は、「男性の腕」であることを三希に感じさせた。
「いて!何で?だって、返事はバスで、ってなっていたから、待っててくれたんでしょ?」
「もぉ!こんなに待たされたら、普通は良いようには考えないでしょ!!フラレル、って考えるに決まっているじゃん?しかも、佐々木君が好きだから告白しているのに、佐々木君の事が良いに決まっているじゃん!!」
三希はほっとして涙が出て来ていた。でも、顔は満面の笑みだった。佐々木はその顔を見て、そっか・・こんなに思っていてくれたんだ・・・と、朝の太陽のような彼女の笑顔に何故かほっとしたのだった。勇気を出して聞いてみてよかった。三希は、ずっと「もぉ!」と言いながら、佐々木の腕を突ついていた。
三希が佐々木を見上げた先の空は、とてもとても青かった。夏雲も見えた。佐々木の顔を見ながら、この顔とこの空の色はきっと一生忘れない、と感じていた。
2人並んで歩く姿は、傍から見ても、とてもキラキラしていた。二人を応援したくなる空気が出ていた。年上の彼女ではあるけど、佐々木を見上げる三希は間違いなく佐々木を頼っている。三希を見下ろす佐々木は彼女を愛おしそうに微笑みながら、クルクル変わる彼女の表情と屈託のない笑顔を恥ずかしそうに見ていた。彼女から次々に出てくる話を聞いているだけで楽しかった。何だかずっと前からの知り合いみたいだった。
そんなやりとりをしていたら、いつの間にか校門も通り過ぎ、昇降口についてしまった。佐々木は部室に向かわなければならない。
「部活に行くんでしょ?気をつけてね。またね!」
「うん、また!」
立ち去ろうとする佐々木の後ろ姿に向かって、三希は、
「佐々木君・・・今日は、お返事、ありがとう」
と伝えて頭を下げた。佐々木は振り返って、笑顔で返した。
普段、佐々木の寝ている顔しか間近で見た事が無かった三希は、佐々木の自分へ向けられた笑顔に心をまた奪われていた。
(私はこうして、これから何度も何度も佐々木君に心を奪われ、何度も何度も恋をするんだ。。)
言葉数が少ないけれど、今、心が通じ合った2人の間には間違いなく「縁」という糸が紡がれて互いに結ばれていた。佐々木がバスケットシューズの紐を結ぶ時のように、きつく。
朝練に向かう佐々木は、何とも言えない「安心感」と「幸福感」を感じていた。この気持ちをどう表現したらいいのだろう。。。2人のこの想いを「守りたい」。三希にもっと応援してもらえるように喜んでもらえるようにバスケをもっと頑張ろう、と決心した。誰も自分のバスケを認めてくれなくても、彼女は間違いなく自分を認めてくれている。自分が誰よりもバスケが好きであることを理解してくれている。今はそれで十分だ。十分すぎる。
頑張る意味も生まれた。彼女の笑顔を壊したくない。守りたい。
今までは、この高校の代表として、このチームでインターハイを目指したい、バスケがもっと上手くなりたい、一生バスケを続けられる方法を見つけたい、という自分自身へ向けられたものだったけど、今は自分のバスケを応援してくれる彼女の為にも頑張りたいと心から思う。
三希は、部室へ向かう佐々木を見つめながら、佐々木がバスケに打ち込めるように全力で彼を影で支えようと心に誓った。
2人は高校生という若さもあるが、この時、お互いの価値観について知る由もなかった。が、2人の将来に対する価値観はとても近しいものがあった。そこに気付くのはずっと先の事になるのだった。お互いが惹かれ合うのにも意味があったのだ。偶然ではなく、必然だったのである。自分の事に自信が持てない似たもの同士の二人のすれ違っていた想いが結ばれるのは、必然だった。
佐々木と三希の新しい季節が始まった。
三希と同様に佐々木は、朝練に行く時に、久しぶりに空を見上げた。いつの間にか夏空になっている事に気付き、これからの季節の部活はしんどくなるけど、この空の色は何だかずっと忘れない気がするな、と感じていた。今日まで空の青さなんて、ちっとも気にしていなかった。気付いてもいなかった。
これから夏本番になる7月の初めだった。三希がもうすぐ18歳になる夏である。
三希が教室に向かうと、佳子が立っていた。
「どうだったの?」
今朝の三希の顔を見ていたら、誰もが「良い返事」を想像できるはずもない。皆が三希のマインドコントロールにかかっていた。
「佳子ちゃん、心配かけてごめん。付合う事になったよ」
「は?え?どゆこと?」
鳩が豆鉄砲を食ったような・・・という表現があるが、今の佳子にぴったりの言葉だと三希は思った。
(佳子ちゃん、心配してくれたのにゴメン)
三希は静かに佐々木との会話の一部始終をまるで誰かの物語を読むかのように伝えた。そうでもしなければ、興奮して話がまともに出来そうになかったのである。
「あのさぁ、佐々木君って、恋愛はバスケみたく上手くないんだね。女心を理解できないというかさぁ・・・」
「まぁね。。。でも、分かりすぎてチャラチャラしているヤツよりも、ずっといいよね?」
「もぉ!付き合えれば何でもいいんでしょ?こ~んなに、みっちゃんを悩ませて、泣かせたのに!待たせすぎだよ」
「えへ!うん、ホントだね」
「おめでとう。本当に良かったね。みっちゃんだけが佐々木君のかっこよさに気付いていたんだからさ。私なんて同じバスに乗っていたことすら知らなかったもん」
三希は理解のある佳子が友達でいてくれることが嬉しかった。
続けて、彩が昨日までの三希と一変して元気印に戻っている事にいち早く気付いた。
「みっちゃん、おはよー。なんかいい事あった?」
「おはよ。彩ちゃん、ありがとね。彩ちゃんのおかげで今朝、佐々木君からお返事もらえたの」
「え?ほんと?なんだって?」
「お付き合いしてくれるって!」
「きゃ~~~~おめでとう!!すごいじゃん!」
「彩ちゃんのおかげだよ。本当にありがとう」
三希は、彩の「おめでとう」の言葉に思わず、グッときて泣きそうになった。彩は三希の背中をバシバシといつも興奮するときのように叩いて祝福した。心の底から三希の想いが届いたことが嬉しかった。毎日毎日、佐々木への純粋な想いを聞いていた彩はとても幸せだった。
自分は卒業前に五木には、どうしても言いたくなかった。卒業したら離れ離れになることも五木の元へスカウトが来ていたこともあり、理解していたからである。ならば、卒業までの間、今のままクラスメイトで楽しめたら、それはそれで幸せである、と思い留めていた。
(この恋は魔法にかかっているようなものだから、高校を卒業したら、魔法が解けてオワリ。それでいい。みっちゃんのように尽くしたい!という想いもないし、ただ楽しく話が出来ればいい。それに・・・みっちゃんと同じでバスケをやっている姿が好きだっただけだから。引退したら、また考えてもいい。気持ちも変わっているかもしれないもの・・・。みっちゃんの佐々木君への想いみたいには五木君の事を真剣には考えていないもの。みっちゃんは、佐々木君のためにも結ばれるべきだったのよ)
そんな風に考えていた。
三希にとって、今日の空気の色も香りも忘れられなかった。ピンク色で甘いグレープフルーツのようだった。昨日までがウソのようだった。
佐々木も嬉しくて仕方なかった。心が通じ合える喜び。あんなに自分の答えを不安な気持ちで待っていてくれていた彼女。腹の奥底から活力が出てくる感じがした。何だろう?彼女の事を何も知らなかった昨日までと全く違うこの感覚。周りの景色すら違って見える気がしていた。
久し振りに朝練から納得できる動きをすることが出来た。スランプから抜け出たみたいだった。身体が軽い。思った通り以上に動く。一切の邪念が粉砕した。絶好調だった。
佐々木のプレイを見て、みんなが思わず「おぉ・・・」と声をあげる程だった。
その日の夕方帰り・・・部活が終った後で、東田は佐々木に近づき、周りに誰もいないことを確かめると
「お前、最近、何かあっただろ?この前から様子が変だぞ。練習も身が入っていない感じだったし。でも、今日は昨日までと違って、キレのいい動きの連発だったよな? 何かあった?」
東田は、口数の少ない佐々木が何か悩み事があって、言えずにいると思っていたのだった。東田はどちらかと言えば、無口な佐々木の分も話をする陽気でお調子者なバスケマンだ。佐々木は少し考えてから、東田の顔を見て、小声でつぶやいた。
「実はさ・・・彼女が出来たんだ」
「は?お前が?いつ?何で?誰?」
普段は冷静沈着な東田が、次々に質問しなくちゃいられないくらい驚きを隠せずにいた。その顔を見て、佐々木も愉快な気持ちになっていた。佐々木から女子の話が出たのは、初めてだったから、東田も面食らったのだ。しかも、いきなり「彼女」である。東田は軽いパニックに陥っていた。
だが、2年生チームの司令塔である東田にはピーン!とくるものがあった。
「この前、練習終わってすぐに佐々木、抜けたよな?教室に行くとかって、あの時か?」
「うん」
「でもさ、あれ、かなり前だったよな?最近、佐々木、何か考え事していただろ?彼女だったら、うまくいっているんじゃなかったのか?」
「実は、告白されていたのに、今日やっと返事を伝えることが出来てさ・・・」
「はぁ?お前何やっているんだよ~。何で今日なの?彼女、よく待っていてくれたよなぁ。お前にふられたと思っていたんじゃないのか?お前よく見捨てられなかったなぁ。アレかなり前じゃないかよ?」
「え?何で東田分かるの?」
「ばっかだなぁ・・・あほか、お前は。普通わかるんだよ!お前の彼女、苦労するな?相手がお前でさぁ。普通、こんなに待たされてOKもらえると思う訳ないだろ?どれだけポジティブな性格なんだ、って疑われるぞ!」
「彼女もふられたと思ってあきらめようとしていたみたいだった。でも、凄く喜んでくれてさ。俺なんかでいいのかな~?って、ずっと考えていたら、返事が今日になっちゃったわけ」
「はいはい、ノロケはもぅ充分だよ。で、相手は誰?」
「東田の知らない人だよ。同じバスに乗る1つ上の人で五木先輩の同じクラスの人」
「年上?いいなぁ、俺も年上の彼女がほしいのにさ。ますます佐々木には驚かされるな。まぁ、お前に彼女が出来て、今日みたいなバスケをするんだったら、俺は凄く楽しみだ。歓迎するよ。もっとバスケが上手くなる気がする。俺たちの代になってもインターハイ目指そうぜ」
「もちろんさ!」
佐々木は、ようやくバスケに打ち込める全ての環境が整った幸せな気持ちでいっぱいだった。いつのころからか抱いていた、一生バスケが出来る予感が手に入った感じがしたからだった。彼女なら自分の想いを応援してくれるはずだ。だとしたら、自分はもっと頑張れる、そう思ったのだ。
自転車通学の東田と別れ、ターミナル行きのバスに乗った。心地の良い部活の疲れだった、久しぶりに。
ターミナルに到着し、高校からのバスを降りて、佐々木の家の方角のバス停に向かって歩いた。
「あれ?見覚えのある・・・三希だ!」
佐々木は、はやる気持ちを抑えて、ポーカーフェイスで三希の所へ向かって、横に並んだ。
「お疲れ。なんでここにいるの?」
「わぉ!びっくりした。部活終わったんだね?お疲れ様。だって、私の家に向かうバス停はコッチなんだもん」
と言って、隣のバス停を指さした。
「そうなんだ」
「あれれ?私が佐々木君を待っていたとでも思ったの?」
三希は、意地悪そうに覗き込んで聞いた。
「いや・・・」
恥ずかしそうに笑っている。
(あぁ、幸せ。こんな佐々木君の顔も見られるなんて本当に幸せ)
「うそだよぉ。本当は待っていたの。学校じゃあ、なかなかお話出来ないもん」
(年上なのに、この人は本当に真っすぐだ。笑顔に何だか救われる。飾る事もなく、ありのままでいてくれるから、きっと安心なんだろうな)
「いつも部活が終わる時間はこの位なの?」
「え?知らずに待っていたの?」
「うん。でも、ちっとも待っていること嫌じゃなかったよ。アレコレ考えていたら、あっという間だった」
「大体はこのくらいの時間だけどね。女バスが全面使う時は早くなっちゃうんだ」
練習をもっとやりたいのに!という心の声が三希にすぐに理解出来たので、笑いながら言った。
「それが水曜日なんだね?」
「あぁ、そうそう」
三希が手紙を渡した日だった。佐々木も同じ事を思い出していた。
2人の中でキュン!とした一瞬だった。
「佐々木君、相生のバス停まで佐々木君のバスに乗っていってもいい?相生で降りて、自分のバスに乗り換えるから」
「いいよ」
バスを待っている間も、バスの中でも三希は今まで見た数試合のバスケの解説を佐々木から聞いた。三希が感動したところ。プレイ中の心境。東田とのアイコンタクトのこと。
そして・・・三希にとっての最大の宝物である、シュートの時の止まった時間について。。。
「だって、五木がシュートしても他の人がシュートしても、そんな事感じなかったけど、佐々木君だけだよ、止まって見えるのは。なんで?」
「ん~なんでだろう?そんな風に言われたことなかったから・・・五木先輩との違いなら分かるよ。あの人はジャンプ力が無いから滞空時間が短いんだよ。五木先輩に比べたら、自分はジャンプ力があるから、その分、滞空時間が長いからじゃないかな?だって、シュート練習の時でしょ?試合中はないでしょ?」
「試合中もあるときはあるよ。シュート練習の時ほどではないけどね、たしかに」
三希は試合を思い出しながら、独り言のようにつぶやく。
「本当にカッコイイんだよね~。絶対に誰にも見られたくないの」
「いや、それは無理でしょ?みんなは毎日見ているよ」
「バスケ部の人じゃなくて!女子!女子に見られたくないの。私もバスケ部だったら、毎日見られるのに・・」
佐々木は、ヤキモチってやつなのかな?と思った。
(なんかいいな。こんな自分の事、全力で好きでいてくれる。バスケの事知らないのに、こんなによく研究してみている。素人ならではの目線で面白いところを見ているよな~)
三希の次々出てくる話を聞きながら、心から楽しかった。
それに加えて、三希の話と手の動きが連動していて、たまに触れられたり、叩かれたりするけれど、そのたびに彼女の指先から伝わる自分への「感情」ともいうべき「愛情」を強く感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます