その22「男女混合リレー2」


 急遽、競技種目の変更。

 男女別リレーから男女混合リレーに変わり、各クラス作戦会議が始まっていた。


 アナウンスが言っていた集合時間まで残り30分。


 あたふた感から会場の雰囲気は焦り、ピリピリ感に変わっていた。去年の体育祭もこうだったかと聞かれたら確か、そんな感じだった気がするし、しない気もする。いや、きっと緊張はしているのだ。毎年最後に行われるリレーは多くの生徒が楽しみにするイベントの一つだ。


 そんなリレーが打って変わって男女混合のクラス対抗リレーにでもなれば緊張感も例年以上になるのは間違いないだろう。


 もちろん、地味と二人でその会場に来ていた僕たちは互いに小鹿のような足を引きずっていた。


「な、なぁ……なんか空気ヤバくないか?」


「……そ、そう……ですね」


「いやぁ、こりゃ緊張するなぁ」


「……うぅ、怖い、です…………」


「ははっ、漏らすなよ?」


「っ——‼‼」


 ズドンっ‼‼


 突如として鈍痛が右足に走り、ビックリしたが目の前には涙目で身体を抱き寄せる地味がいた。その目が必死に言わないでくれと叫んでいる。少々いじり過ぎてしまったようだ。


 数分後、クラスの先発メンバーが集まると、出流がこう切り出した。


「走順はどうする? 一応、委員会からは特に指定はされていないし、順番を変えることもできるっぽいが」


「そうね、ちょっと——とは言わずに結構変えた方が勝てるかもしれないわ」


「俺も楓さんに賛成だ。アンカーを男子の一番速いのやつにして、ファーストランナーは女子の早い奴にするのがいいと思う」


「おぉ、それはいいかもな」


「その間とかはどうするよ?」


「私的には速さをカバーし合える順番がいいと思うわ」


「速さをカバー……それなら仲の良さ、相性の良さも考えた方がいいんじゃないか? お互いを知っていれば結構走れるだろうし、集合まではまだ30分もあるからバトンの受け渡しもできるわけで……」


「お、それもそうだな! 俺はそれでいいと思う」


「僕も賛成」


「私もそれでいいと思うわ」


 すぐさま決着する作戦会議、そこからさらに数分と話し合い、調整が行われ——————僕と地味は前後になったのだった。







 そして、30分後。


 チャイムと同時に放送席から実況者(放送委員会委員長)の声が響き渡る。


『さぁ‼‼ 遂に始まります‼‼ 札幌記念、男女混合クラス対抗リレー、まずは第一レースの出走です‼‼ 1枠、2年3組。2枠、3年6組。3枠1年1組。4枠2年1組。5枠、3年7組。となっています。第一走者の方々はスタート地点についてください‼‼』


 まるで競馬のような実況の紹介と共に、ピリピリとした空気の中、第一走者がスタート位置についていく。僕らのクラスの出番は4レース目だが、この空気感で心臓がどきどきする。


「位置について——」


 ついに始まる。

 僕らの春の終わり、そして夏の始まり。


 うちの高校だけの風物詩が——僕らの恋が——ようやく始まる。


 そんな主人公の様な、まるで物語の中心にいるかのような――すべての始まりを知らせる音が。


「よーーーーい……」


 息を飲んで、数秒。


 ――――パァンっ‼‼‼‼‼


 沈黙を切り裂く——乾いた発砲音が辺りに響き渡った。




 ……気のせいか、もしくは緊張と興奮のせいかは定かではない。

 

 ほのかに見えた地味の笑顔に僕の瞳からは少しだけの涙が流れていた——気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る