その21「男女混合りれー」
吹っ飛ばされた僕の体。
平手打ちの跡がじんじんと痛む中、僕と地味はそれぞれの競技に勤しんだ。
僕はバトミントンでバド部の一年生と壮絶なる戦いを制し、数回の勝利を迎えた結果なんと準優勝まですることが出来た。
決勝戦には出流や楓、そして地味も体育館の端の方から見守ってくれていて、負けはしたが彼らには恥じない戦いができたとは思う。
それに、最後の地味の顔は……いや、やっぱりなんでもない。
そして、地味の方はというとまさかの二回戦敗退。ゴールデンウィークの練習も実らなかった……というわけでもなかった。
大差で負けたのは事実だが、相手チームにサッカークラブに通うU-18の女子日本代表がいたのだから仕方ないだろう。それに、そんな完璧なる無双ゲームの中で地味はまさにエースの変革を見せていた。
たまたまのルーレットに、たまたまのヒールリフト。
まさに運だけの春日。
運の連続だけでゴール前まで飛び込み、泣きの一点を決めていた。
まあ、大差には変わりなかったが個人的には目尻にグッときた。
「————てなわけで地味も凄かったな」
「ほんとだよね!! 地味さん凄かったよ、何あれ、めっちゃドリブルしてたじゃん!」
「ははっ、ありゃ俺も驚いたよ……サッカー部のマネやらない?」
「……ぁ……ぃ、や……べ、別に……」
出流と楓がいるおかげで少し怖けて肩がしょぼんとしているが、これはいつも通りだ。特に問題はないし、凄かったのは文字通り本当だ。
うちのサッカー部で一緒にプレーしてほしい……とまではいかなくてもたまにサッカーやらフットサルをやりたいくらいには上手かった。
休日にどうだ? と言ってみたいが、外で遊ぶのはあまり柄ではないだろう。
「まあまあ、地味も困ってるしそこまでしとけって」
「あ~~女の子いじめてる~~」
「は、なんでそうなる……俺はただ褒めてただけで!」
「うわっ、女の子褒めていい気になってるとかまじできもっ、ないわ~~」
「……そういうわけじゃねえ。ていうかな、それなら楓だってさっきめっちゃ褒めてただろ!」
「違うし~~あれは敬意だし~~ほめてるわけじゃありませ~~ん」
「何を屁理屈な、小賢しい……このチビっ子!」
「は、は!? そ、そんなの関係ないし‼‼ それに私はギリ150㎝あるし‼‼ チビじゃない!」
「ははっ、笑わせてくれるっ‼‼ 楓、お前——女子の平均身長って知ってるか? 158㎝だぞ?」
「なっ‼‼ そ、それは平均じゃない‼‼ 国のやつらが私たちを陥れようと策士してるんだし‼‼」
「妄想も甚だしいなぁ、まったく……いい加減認めろよ~~」
「誰が認めるか、この、女たらしめ‼‼」
「た、たらし……そんなわけあるか‼‼」
「この前、私見たんだからね……西階段の踊り場で女の子に告白されてる……」
「あぁ~~~~~~知らない、俺はなにもしらなぁ~~い‼‼」
まったく、とは誰の言葉だよ、まったく。
これだから幼馴染ペアはやめられないってか。
唐突に始まったどうでもいい口喧嘩に目を細める僕の隣で、地味は口喧嘩を初めて見たかのように目をパチパチしながらあたふたしていた。
「……痴話喧嘩はよそでやってくれないか?」
「「痴話喧嘩じゃない‼‼」」
おお、ハモった。
こりゃあ、夫婦喧嘩でもいいかもしれない。
「誰がこんな……」
「こっちの台詞だね」
二人の喧嘩の火種が二人によって落とされそう――――なその時だった。
呼び出し鐘がグラウンドに響き渡る。突如としてなった音に僕たち四人は少しだけビクついたが、すぐに状況は一変する。
『体育委員会、生徒会より本校生徒または関係者に連絡です。本日、最終プログラムの各クラスの男女別クラス対抗リレーですが、プログラムの大幅な遅れにより男女混合リレーに変更することになりました。大変急な変更ですが、先発メンバーに付きまわしては決めてもらった男女合わせ16人で構いませんので集合時間になり次第、部室棟前にてお集まりください』
繰り返します――と大きな音が鳴り響く中、僕達は目を見合った。
「「「「一緒に走れる」」」」
そんな言葉が脳裏を反芻する。
もしかしたら、そう思っているのは僕だけなのかもしれない。
だが、そんな心配よりも地味と一緒に走ることが出来る喜びに一瞬だけ、体が熱くなっていた。
「だ、だってさ」
「お、おう……生徒会も急だな」
「まあ仕方ないんじゃない? 私が出てた女バレーが延長戦になってたし……それに翔のバドミントンも結構長引いてたみたいだし?」
「まあ、そっか」
「とにかくそれまで暇だし……クラスの連中が出てるのみに行くか?」
「あぁ、出流の言う通りだな、行こうか、地味?」
「……っ、は、はい」
「——そうだね、地味さんっ! 私、地味さんのこともっと知りたいし色々聞いてもいいかな?」
すると、おどけた地味の手を握って楓がニコッと笑顔を浮かべる。さすがコミュ力お化けと言ったところだが、地味の少し怖がった表情を浮かべていた。
「おい、あんまり地味を困らせるなよ?」
「その通りだ」
「大丈夫だって~~、ね、地味さん?」
「……っん」
こくこくっと額に汗を浮かべながら頷く地味の表情的には、飼い主に怯えた犬みたいな感じだった。ここから主従関係の百合が生まれる――――それはそれでいいかもしれない。
そんな御託を頭の中で並べながら僕たちは体育館の中へ入っていった。
いやはや、最近体調の悪化で言えていませんでしたが……900フォロー突破ありがとうございます。まさかここまで……とは。とにかく完結まで走っていきますのでついて来てくださいね!
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