その15「漫画なんて……!!」


 それから数日の特訓もこなし、ゴールデンウィーク最終日のことだった。

 

「……ぁ、ぁの……明日、本屋……行っても……い、良い……ですか?」


 唐突の提案。

 しかし、運がよかった。


 ちょうど僕自身、最後の日くらいはオフにしようと思っていた。ここまで頑張ったのならサッカーも100メートル走も何とかはなる。団体リレーも恥をかかない程度には頑張れるだろう。


 確固たる自信があるわけではないが、そう言う時こそ休みも重要だ。


「お、いいぞ?」


 そうして僕が二つ返事で返すと、彼女は嬉しそうにコクっと頷いた。


「ほ、い、いい……ですかっ!」


「あぁ、たまには……遊ばないとな」


「あ、遊びって言うわけじゃな……なぃですけど……」


「え、そうなのか?」


「は……はい。その、新巻が出たので……か、かいに……いきたいん、ですっ……」


「漫画の?」


「小説ですっ」


 すると、目つきが変わる。

 ギロリと一発、眼光から放たれた弾丸が僕の瞳目がけて飛んできた。


「小説ですよ?」


「……う、お、おぅ……なんで二回言った…………てかっ、なんでキレてるのっ⁉」


「だ、だって……私はあんな低能が読む様な絵と文字の連なった紙を読むわけないじゃないですか、そこだけは譲れませんし、間違えたら怒るに決まってますよ、本気ですよ、舐めてるんですか、私が地味子だからっていじめられっ子だって馬鹿にしてるんですか⁉」


「……」


「っはぁっはぁっはぁ……い、言い切り……ましたっ」


「いやぁ……急にびっくりしたぞ……」


 急な早口。

 瞬間、鋭く変わった目つきから放たれた長台詞に僕は一歩退いてしまっていた。


「び、びっくりしてください……とにかく……わ、私は——漫画が好きじゃないんですっ!」


「それは分かったけど……漫画も面白いぞ?」


「あ、アニメなら見ます…………で、も。漫画は違います‼‼」


「何が違うのさ……?」


「んにゃっ! ……そ、それは…………そのっ、なんと……いうか……えと、その……」


「焦ってるじゃん」


「あ、焦って……ないですっ……」


「ははっ……まぁ、いいさ。そんなに漫画が嫌いなら――僕が面白さを叩き込んでやる!!」


「……ぜ、ぜったいに…………はまり、ません……から」


 赤く染まった頬。

 うぅ……と犬が威嚇するかのように喉を唸らせ、警戒させるその姿が犬に似ていてキュンときたのは——漫画派として対立する僕の秘密にしておこう。









 翌朝。

 地味の家の前で落ち合うことにした僕は玄関先にしゃがんで待っていた。


「時間は……9時50分っと。いいね、10分前に来れたっ」


 通り過ぎていく車、そして歩いていく人々。

 さすがゴールデンウィークだ。最終日ということだけあってそわそわ感が街の中にも表れていた。


「っふぅ」


 いや、しかし。いつもジャージ姿であっていたためか、しっかりとおしゃれした服を身に付けるのは少し気恥ずかしさを覚えた。地味ともこの一か月ちょっとで何回も会っているはずなのに心成しか、緊張している気もする。


 しっかりセット出来ているか心配で髪を触る僕を見るなりニコッと微笑んで歩いていくおじいさんのせいでその緊張は倍増したしな。


 じいさん、マジで頼むよ……。


 ここまでスパルタに教師としてスポーツや勉強を教えてきた身としては言いにくいが……地味とは普通に恋人したい。


 こう、もっと楽しく映画館に行ったり、学校祭で遊んだり、夏祭りに行って花火見たりしたい。


 あぁ……妄想が捗るな、マジで。

 夏祭り、おっぱい引き締まった地味の着物姿。


 想像したらこう——色っぽさがぁ、あぁ、たまらんっ。




 ――――続く。





 ☆評価くだちゃい。


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