その14「熱血特訓バルンバルン」
バルンバルンっ。
そして、パツンパツンっ。
そんな擬音もさることながら。
必死に走る地味の身を纏う学ジャー(学校ジャージ)が巨大な胸に押し出され、ピンピンに張っていた。
今にも弾けそうなチャック。その頑張りように、男としても感謝の意を示そうかと思う。
それにしても、凄まじく綺麗な光景だな。
100万ドルの夜景というが、こっちの方が絶景だ。むしろ、1億ドルの眺めとも言える(個人的な感想)。
いやはや、眼福眼福。
これこそ、人類が求めていたものだろう。
エロは世界を変える。
世界を平和にするのはエロ。
それこそ、世の理。
世界のどこに居てもそれだけは変わらないのだ。
「————もう一回‼‼」
「……ん、はぁっ……はいっ‼‼」
――――と熱血ぶりを見せていた僕なのだが、実は頭ではそんなことを考えていた。
我ながら、頭がおかしいことこの上ない。
一方、全力で走っている地味。
おそらく、これで50メートルは10本目。
合計500メートルってところだ。
しかし、だ。
頭では変なことを考えてはいるが、僕も僕でしっかり見ている。その理由としても彼女のタイムも走るごとに徐々に上がっている。
1秒、2秒、そして3秒と……ゆっくりと速くなっているのだ。
さすがと言えばいいのか、勉強でもそうだったが地味は吸収が早い。とにかく覚えるのスピードが桁違いだ。普通の人なら、僕含め普通の人ならこうも簡単に変わらないがその点彼女は違う。
教える側の人間としてふさわしくはないが……妬けちゃうよ。
そして、数時間後。
休憩を挟みつつ、僕も一緒に走りながら取り組んでいたのだが……
「っはぁ……っはぁ、っはぁ……」
————もう、ヘロヘロだった。
汗が滴り、顔は真っ赤。熱中症なんじゃないかとさえ思うが息が上がっているだけのようだ。
体育祭が春明けに開催で感謝だな、これは。
「っはぁ、っはぁ、っはぁ…………んh……も、もう……無理ですっ」
すると、その瞬間。
そう呟いた地味はぐっと、よろけた。
右脚から力が抜けたかのように倒れていく彼女に駆けよって僕は身体を支える。
ドシッと乗っかった地味の体。
少し重い。
いつもならここまで体重は乗っかっていないが……どうやら相当疲れているらしい。少し、無理をさせてしまったのかもしれないな。
あと、二の腕に巨大な胸が当たってます。
「いっぱい」の「い」を「お」に変えたものが当たっています。
あ、いや……それは「おっぱお」か。
じゃなくてだな!!
「おっと……さすがに、走り過ぎたか……おい、地味。大丈夫か?」
「は……はいっ……はぁはぁ、はぁ……」
「ほら、これ飲めっ」
「あ、ありがとうっ……ございますっ」
息切れが激しい。
渡したスポーツドリンクのボトルを天に掲げ、ごくごくと飲んでいく彼女。まるで犬の様に必死に飲むが故、口から零れ落ちジャージを濡らしていく。
「あぁ……まったく、零れてるって……」
「ん、ん、ん……ぷはぁっ…………はぁ……ご、ごめん……なさいっ……」
「いいよ、大丈夫だからいっぱい飲みな」
「……っん」
コクっと頷いて飲む地味。そんな彼女を横目に僕はストップウォッチの表示に目を向けた。
そこに書いてあったのは「19.67」。
最初に測った時より、4秒弱も減っていた。凄まじい成長速度。まだまだ遅いが数時間でここまで来ると異次元だな。
自分のタイムの雑魚さが目に見えてくる。才能というのはいつでも容赦がない。
「た、たいむ……は、どうで……した、か?」
すると、一通り息を整えた地味が顔を上げ、そう言った。
「あ、あぁそうだな……もう、地味は大丈夫か?」
「はい……大丈夫、です……」
先程まで赤かった顔が少しだけ薄まっていて、息遣いも徐々にいつも通りに戻っていっている。回復の早さもどうやら桁違いだ。
「おっけ……それで、今のタイムは19.67だ」
「っ⁉ ほ、ほんとですかっ⁉」
「ここで嘘はつかないだろう……」
「……ぁ、はい……で、でも……ほんと……なんですか?」
「ああ、ほんとだ」
「~~~~っ‼‼」
疲れた表情に笑みが見えてくる。
まあ当初から4秒も伸びればそら、誰でも驚く。
地味の努力に、その日の僕らはお互いに大いに喜んだ。
「——————んで、一体全体……これはどういうことだ?」
「ぁ…………ぁ——そ、その……えっとぉ…………」
「ど、う、い、う、ことだ?」
「っ……うぅ……め、目が……」
「なんで、タイムが……元に戻っているんだよぉ‼‼‼‼」
「——っ! ご、ごめん……なさいっ……」
涙目の地味。
口が開かない僕。
翌日のこと。
始まった特訓もすでに雲行きが怪しくなったのであった。
<あとがき>
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