その13「100メートル、23秒……?」
翌日、近所の大きな公園に来ていた僕と地味は早速、休み明けにある体育祭に向けて準備を始めていた。
まずは足の速さ、脚力だ。ここを鍛えることが出来れば他のスポーツにもつなげることが出来る。
生憎と、うちの高校は女子サッカー部もあるから技術面じゃどうにもならないし、地味が勝てる部分は体力とか脚力とかその辺だろう。
それに、それなりに背もあって、胸も大きい。加えてムチムチなのだ。読書少女だけあって、綺麗で可愛いけど……体型はムッチリ。
無論、何の反論もない僕の好みだ。
「よしっ……まずは走りだ!」
「……気分が……乗らないです」
「僕は乗ってるぞ?」
「それは……鈴木君が外を好きなだけ、ですっ……」
「別に好きじゃないけどな……」
まあ、地味の様にわざわざ離れた木陰に入るほどでは――ないな。
「まあいいや、とにかくやるぞ! ゴールデンウィークはあと五日しかないんだからなっ」
「は……はいっ」
そうして、地味のやる気ない返事と共に、今回のオペレーション「体育祭で活躍大作戦!」が始まったのだった。
「よーい、どん」
「うっ——!」
そうして、始まった第一回100メートル走記録会。
その第一走がスタートした。
「……っはぁ!」
そのフォームは汚く、よく見る女の子走り。手を横に広げ、内股で走るような男子には理解しがたい走り方だった。
「っはぁっはぁ……」
空を切る風の音……のように響く地味の息。
頭を上下に動かすように全力で走ろうとする姿はとても愛らしい。
このまま、ずっと見ていたいような気もするが今回は練習なのだ。甘いことは言っていられない。
すると、残り半分。50メートル時点に差し掛かっていた。
100メートルは普段の数秒で終わる50メートルとは違って少し長い、そのせいか心なしか息も上がってきているように見える。
バルンバルンと重力と直線運動に揺らされたおっぱいも彼女がどれほど頑張っているかを示していた。
それから数秒、残り10メートル。
そして、地味はゴーーーー
ルしてくれたと思ったのだ————が、ここに来てまさかの事態だ。
僕は手元にあるストップウォッチを見つめ、固まっていた。もはや、声すら出ない。平然と吹くそよ風にうたれながらじーっと見つめるこちしかできなかった。
「……え」
ようやく出た一言は「え」。
驚嘆、いや驚愕を表す音だった。
「……に、に、に……23秒……?」
僕は……初めて見たかもしれない。
100メートル走で20秒という数字を見るのは。いや、だって……いくらなんでもおかしくないか。世界陸上などを見る限り、この秒数は200メートルのタイムだ。いくら素人とは言え、そこまで差が開くわけ……。
「っはぁっはぁ、っはぁっはぁ……っはぁ、っはぁ……み、み、……ずっ、みずっ……く、だ……さぃ」
「あぁ、分かった。ちょっと待ってて…………ほら」
「あ、あ……ありがとうっ……ございっ、ますっ……はぁっはぁ」
「……」
にしてもびっくりだ。
頑張っている地味には申し訳ないが論外が過ぎる。
いや、僕が予想を見誤っていたかもしれない。なんとなく体型や性格や、その感じからこのくらいだと予想は付けていたがまさかここまで遅いなんて……。
これでは対策も何も、とにかく走るくらいの事しかできない。
すると、考え込んでいる僕に向けて地味が近づいた。
「あ、あの……た、いむ、は……」
「タイム? あぁ、そうだな……一応言わないとだな」
「一応? ……ど、どうしたんですか?」
「いや、なんでもない……気にしないでくれ。それでタイムだな、えっと——タイムは——あぁ、23秒」
「23秒?」
「ああ、そうだ。地味のタイムは23秒だ」
いやはや、顔面蒼白と言ったところか。
仕方がないと言えばそうだろう。まさか自分が20秒を切るとは思わないだろうからな。女子の平均タイムは15,6秒くらいだから……それよりも8,9秒も違う。
無理もない。
そして固まった彼女。口を小刻みに揺らしながら、疲れも吹き飛んだかのように堂々と仁王立ちしている。
「——だ、大丈夫か地味?」
そう声を掛けた次の瞬間。
「————っ! や、やった……ですっ!」
「や、やった?」
「はいっ……その、わ、私……自己ベスト……26秒だったので、3秒だけ伸びました!」
「まじか」
「まじ、ですっ!」
その瞬間、僕は思った。
この地味子。
途轍もないくらいの爆弾を抱えているのかもしれないと。
胸の揺れがどうこうとなんて甘ったれたことは言っていられないと。
僕自身、スパルタで鍛えてやると誓ったのだった。
ちなみに作者の100m最速タイムは中学生の頃の13秒です。まあまあっすね、高校では測る機会なかったので笑笑
ということで、次回はその14「熱血特訓バルンバルン!!」
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