その12「密室で二人きりでは何も起こらないわけがない」
そして、待ちに待ったゴールデンウィーク。
僕は彼女である地味の家にお邪魔していた。
「ここまで来たら、流石に慣れるな……」
「……な、慣れる……?」
「え、いやぁ……地味の家に来たのは今日で三回目だし……さすがにここまで来ると、人間はこうも慣れてしまうのかと思ってな」
「そ、そうですね……でも、な、なんか……そう言われると、彼女として……少し悲しい……です」
「ははっ、ごめんごめん……」
いやはや、ゴールデンウィークで彼女の家で二人きり。
彼女の親は絶対に帰ってくることがないリスクの低い密室で二人の男女、なによりカップルがいるのだ。
何もないわけがない。
そう考えればここでいっそ自らの童貞人生に別れを告げて巣立つことだってできるのだが————生憎と、僕はそこまで腐っていない。
段階というものを取りたいのだ、僕は。
まぁ、真面目に語っても……相も変わらず――大きなおっぱいだったがな。
「まあいいや。とりあえず……体育祭に向けて作戦会議するぞ!」
「は、はい……」
そうして、僕と地味の二人だけのゴールデンウィーク体育祭準備編が始まったのだった。
「んで、まずは競技の確認からだな?」
「きょ、競技ですか……その、いや……ほ、本当に、やるんですか?」
「地味がやるって言ったんだろ?」
「……そ、そう……です、けど……」
「嫌か?」
「嫌……とか、そういうわけ、では……ないです……」
「ふぅん……」
視線を逸らす彼女。
どうやらまだ乗り気ではないらしい。
なにしろ、彼女でもある地味が嫌な思いをしてほしくないことが目的なのだ。ここで折れてやらなければ、地味が辛い思いをするだけ。僕はまだ得意だからいいけど、彼女にとってつまらない行事になるのは困る。
去年も助けてあげればよかったが、知ったのが二年生からじゃどうしようもないだろう。
それにだ、過去の話などどうでもいい。ここで僕が頑張れば、将来一緒にスポーツできるかもしれないという確約だってできるわけだ。
これはもう……一緒に走った時に揺れる胸‼
それが拝めるというだけで僕は生きていけるし、働けるし、尽くせる自信がある。
ああ、いつかは揉んでみたいなぁ……。
「……な、なに……ニヤニヤしてるんですか?」
「おっとごめん、こっちの話」
「……あ、怪しい……です」
「いやいや、本当にこっちの話だから気にしないでくれ」
「……むぅ」
まあ真面目に
それに、そんなことよりも、見たかよ今の顔。
ぷくっ——って、ぷくぅ――ってやったぞ。ほんのり朱色に染まった頬がリスみたいに膨らんで愛おしったらありゃしない。本当に付き合ってよかった。こんな宝が誰とも付き合っていないのは宝の持ち腐れ。クラスの奴らも一年の時の奴らも女子力の何たるかを分かってないな。
「それで、地味が出るのはなんなんだ?」
「えっと……さ、さ……サッカーと100メートル走……です」
「個人か?」
「ま、まぁ……あとは、その……団体のリレーに……」
「あぁ、そっか……それは楽しみだなぁ……」
「? な、なんで楽しみなんですか……?」
「あぁ、いやぁ……こっちの話」
「さ、さっきから多すぎです……なんですか……」
「いやいや、マジで大丈夫だから……」
すると、その瞬間。
机を隔て向こう側に座る地味が立ち上がった——そして、気が付くと彼女は僕の体に馬乗りしていた。
「え」
「な、なんか……仲間外れにされるのはい、嫌ですっ——き、気になります‼‼」
「べ、別に……まじで大したことじゃないんだけど——」
「い、いいからぁ~~‼‼」
「は、はい……その……地味の揺れを……というか」
「声が小さいです」
地味に言われるのか。
世も末だな。
「あぁ……いやぁ……その、なんていうか言いずらいというか……うーん……」
「んん~~~~」
「っ……その、地味の胸の揺れを眺めることが出来そうだなぁ——と」
僕がそう言うと返答が来なかった。
顔を見ると固まった表情。若干青ざめたかと思えば、少しのラグを超えてすぐに地味の顔は真っ赤に染まった。
「……」
すると、ゆるゆると力を抜かし馬乗りになった身体を退かしていく。そっぽを向いて、顔を隠し、僕から数歩離れると。
「……なんで、そんなこと……言うんですか」
「聞かれたから?」
「わ、私はっ‼‼ ——そんなこと、聞いてない……ですっ」
「いやぁ、聞いたんだけどな……」
「断じて聞いてないです‼‼」
バシっ‼‼
フローリングを叩く音が響く。
同時に、反作用の力で胸も揺れる。
これがπ有引力って力か。
「……も、もぅ……なんで、鈴木君は……そんなに、すけべぇなんですか……」
「ははっ、君がそんなことを聞いちゃうのかい?」
「……私、何もしてないです」
「何もしてない? 空耳か?」
「ち……違います」
「……何もしてないって、地味……その魅力的な身体のせいだけどな」
「……っ⁉ も、もう‼‼ ほ、ほほ、ほんとに――すけべぇですね‼‼」
パシンッ‼‼
甲高い乾いた音が響く。
すると、一発。
僕の頬に平手打ちが突き刺さったのだった。
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