テンポ感

シヨゥ

第1話

 里帰りしたついでに近況報告も兼ねて古馴染みたちと会うことになった。

 SNSでゆるくつながっていることもあり、まるで答え合わせのような雑談になる。「あの時ああいう投稿していたけれども、それってこういう事?」とか「あの時はああだったけど、今はどう?」みたいな感じだ。そのおかげかすぐに打ち解けることが出来た。だからだろうか、

「お前会話のテンポが悪いなぁ」

 なんて遠慮のないことを言われてしまう。

「昔はそんなじゃなかったよな? もっとポンポン返していた気がするけども」

「そんで的はずれなこと言ってさ」

 率直な感想と認識のズレの確認のようなものだ。別に怒るようなことでもない。

「大人になったってことかな」

 なんて返すと、

「濁すな濁すな。絶対何かあっただろう」

 と勘繰られてしまう。濁し続けることも出来たが別に言ってしまっても構わないだろう。

「前職の話にはなるんだけれども、まぁブラックでね。蹴落として、蹴落とされてな感じだったわけ。だからこんなテンポ感になったわけよ」

 暗い話題だから努めて明るく話したつもりが空気が重くなった。

「端折り過ぎてわからん。もっと詳しく」

「詳しくって言うと……1つは相手の間を崩すって効果かな。相手の期待に乗らない。これが1番な訳よ。だから、相手とは違うテンポ感で返し続けたのさ」

「それはイライラされただろうに」

「それはお互い様だからね」

 思い出しつつ僕は遠くを見てしまう。それを見た周りが若干引いているのが分かってしまった。

「1つ目ってことは2つ目もあるの?」

 それでも聞いてくるのはさすがは古馴染みといったところだろう。

「あるよ。2つ目と3つ目があるんだけれどもこれはどちらも観察する余裕を持つって言えばいいかな」

「観察?」

「そう、観察して理解する。まずは相手を観察して理解する。どういう気持ちで、なにをして欲しくて僕に言葉を投げかけてくるのか。これを観察する」

「もう1つは?」

「自分を観察する。相手の言葉になにを思っているのか。これを観察し、理解する。理解することで

感情を制御できるからね。これで常に平常心で居られるってわけ」

 軽い口調で話してはいるが、この技とも言える考え方に至り慣れるには相当の時間がかかった。あの頃のキレていた自分をここ居る古馴染みたちには見せたくない。

「苦労したんだな」

 それを察してか労うように肩を叩かれた。

「そんじゃあ次は俺の苦労話でも聞かせようかな」

 気の良い奴が僕の話を受けてそう言うと、

「そんな流れ期待してねぇぞ!」

 と声が上がる。それからは実にくだらない毒にも薬にもならない話ばかりがダラダラ続いた。その中でも僕の話の癖は抜けなかったが、それを誰も気にするはなかった。いい友達を持った。素直にそう思える時間だった。

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テンポ感 シヨゥ @Shiyoxu

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