第13話

「ねぇ、どうしちゃったのっ!?お母様、デネブ、ボロネーゼっ!!?」


 三人を順番に身体を揺らすけれど、全然反応しない。

 まるで、人形になってしまったようだ。


「ハアアアアッハッハッハッ!!」


 その静寂を打ち破る男の声。


(何この声・・・)


 胸を抑えてふらつくレイラ。

 そのとても通る声はレイラの心をクラっとしかけた。


「はぁ・・・日に日に品質が落ちていくな・・・。まぁ、美味そうな女から食べているのだから仕方ないか・・・」


 王座から見下ろす男。

 鋭く自信に満ちた赤い瞳。

 真っ白で、毛穴なんて存在しないんじゃないかってくらいきれいな肌。

 漆黒の紳士服を着こなしている。


 その男は全体を見渡す。


「おっ・・・」


 ドックンッ


 レイラは男と目が合うと心臓が高鳴る。恋でも何でもないし、それは自らの感情ではない。この世でも珍しい赤い瞳。その能力に促されたのだ。彼は魔の側の存在。


「おい、そこのお前・・・こっちにこい」


 男はレイラを見て言葉を発するが、レイラは怖くて目を逸らした。すると、その瞳を直接見たデネブとボロネーゼが「はぁ~い」と言って、虚ろな目をしながら嬉しそうにその男の元へととぼとぼ向かう。


「んっ?」


 男は自分の命令に従うという「当然」のことに逆らうレイラに疑問を持った顔をする。


 ギイイイッ


 新たな女性が舞踏会に参加するために扉を開いた。


(ここしかない・・・っ)


 レイラは急いで振り返って逃げようとする。


「その女を止めろっ」


 ガシッ


 レイラが横切ったはずのマルガリータがレイラの手首を掴む。


「痛いっ・・・放してくださいっ!!」


 マルガリータに叩かれることもあれば、腕だって思いっきり掴まれることだってあった。それだって、今のマルガリータが若くて血気盛んな時に、だ。その時よりも明らかに思いっきり握られた手首は尋常じゃなかった。まるで、マルガリータからリミッターを外してしまった可能ようだった。

 

 レイラがマルガリータを見ると、歯ぎしりをしながらよだれを垂らし、こめかみの血管が浮き出ていて、まるでフランケンシュタインにレイラは見えた。


「ふっ、我から逃げることなど無駄だ」


 いつの間にかレイラの傍にその男が現れた。


「なっ、なんなのっ?」


 現実が見えていたのか、入って来た女性がびっくりしていると、その男が睨む。

 すると、その女性は意識を失いその場に倒れ込んだ。


「さて・・・顔を見せろ」


 男がマルガリータの肩を叩くと、マルガリータがまるで糸の切れた人形のようにおとなしくなり、レイラの手首を握り締めるのを止める。


 男はレイラの顔をよく見るために、アゴに手を添えて軽く引いた。

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