第11話

「わっ、わたし・・・帰りたい・・・っ」


 ただならぬ雰囲気を感じたレイラは恐怖で馬車から降りようとする。


「なにやってんの・・・よっ」


 デネブが逞しい腕でレイラを押さえつける。

 そんなやり取りをしていたら、レイラの継母であり、デネブたちの母であるマルガリータが目を覚ました。ぼーっとしていたけれど、目をパチパチさせながら意識を整える。


「どうしたの?デネブ、ボロネーゼ」


 まだ頭がぼーっとしているのか、マルガリータが二人の実の娘に尋ねる。


「ちょっと、聞いてよママ。ここまで来て、レイラが帰りたいなんてワガママを言うのっ」


 マルガリータの前に座っていたボロネーゼがマルガリータの手を揺らしながら、早く怒って欲しそうな顔をする。

 レイラはさすがにマルガリータの存在は怖くて、デネブに抑えつけられて抗っていた動きを止める。


「今・・・ここは?」


「もう、お城に着くわ。ママ」


 デネブが悪者をひっとらえた役人のような正義感と達成感に満ちた顔でマルガリータを見る。


「許しません。許されるはずもありません」


 冷たい目でレイラを見るマルガリータ。


「ほら見なさい」


 デネブが勝ち誇った顔をする。


「でも・・・こんな怖いところ嫌なんですっ!!!」


 ヒヒーーーンッ


「うわっとっと」


 あまりに大きな声を出すので、馬がびっくりして、馬車の運転手が慌てて宥める。


「本当にこれだから・・・田舎者は・・・」


 ボロネーゼがそう言って、鼻水を袖ですすろうするとマルガリータが扇子でその腕を叩く。


「言葉には責任を持ちなさい。レイラ」


 マルガリータの態度は毅然としており、何事もない顔ををしている。

 レイラからすれば、能天気気味な異母妹が全然この状況を気にしない可能性もわずかにあるかと思ったけれど、継母であるマルガリータすら平然としているならば、自分が「異質」であると認めざるを得なかった。


「これだから・・・世間知らずは・・・」


 はぁ、とため息をつくマルガリータ。

 レイラは言い返したくなったけれど、それよりも自分の胸の中にあるざわめきに蹴りを付けなければならない。


(ぜったい・・・おかしいもの・・・っ)


 レイラは城に着いた瞬間逃げることばかり考えていた。

 マルガリータが言うように自分は世間知らずなことをわかっているけれど、それでもお城に行くよりも、全く知らない世界での方が長く幸せに暮らせると感じた。


「どうどう・・・っ」


 馬車の運転手が馬を止める。


「さぁ、着いたわよ。今日こそ王子を射止めるのです。デネブ、ボロネーゼ」


「「はい、お母様っ」」


 二人は元気よく、馬車を降りる。


「さっ、貴女も行くのです。レイラ」


 マルガリータに言われて恐る恐る馬車を降りた。


「「どうっ、すごいでしょっ!!」」


 二人の異母妹がさも自分の城のように城を紹介する。


 ブルラン城。


 レイラにとって、その城は舞踏会が始まるような賑やかさを感じず、人気のない静寂した怖さがあった。


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