第4話

「ねえっ!!ピッグニュース、ピッグニュースよ!!」


「ピッグじゃなくて、ビッグね・・・でなによ・・・っ」


 ある日の朝。何かの用事で街に出かけて帰ってきたボロネーゼが、けたたましく言うので、珍しくデネブがトーンを低く返事をする。掃除をしていたレイラもちらっと二人を見るけれど、難癖をつけられても嫌なので、すぐに目線を戻し大人しく箒でゴミを掃いていた。


「これを見てよっ」


 そういって何か書いた紙をデネブとマルガリータに見せる。


「えっ、これっ、ほんとっ!!?」


 先ほどまでテンションが低かったデネブが珍しくキーの高いかわいらしい女の子の声を出す。まるで、恋する乙女のような声だった。


「本当よ、姉さん。『王子様がフィアンセを見つけるために舞踏会を開くんですってっ!!』」


「「キャーーーーッ」」


 手を取り合って喜ぶ姉妹。


(自分と結婚するわけでもないのに、そんなに人の恋が大事かしら?)


 そんなことを想いながらレイラは塵取りでゴミを掬っていく。


「しかも、参加条件はただ一つっ!お城にこれる女性にはみーんなにチャンスがあるのっ!!」


 『みんなにチャンス』のところでちらっとレイラがボロネーゼを見ると、ボロネーゼがにんまりレイラを見ていた。レイラはその顔を生理的に受け付けられなくて、ぶるっと震えないが慌ててゴミを捨てに行く。





「結婚か・・・」


 レイラはゴミを捨てに家の外に出た。家の中はまだキャピキャピうるさいけれど、外は静かで穏やかだった。


(お母・・・、マルガリータ様は結婚なんてろくなもんじゃないとお酒を飲むと良く口にしていたなぁ。なんでも、水商売していた私の本当のお母さんが偉大なるお父様をお母様、じゃなくてマルガリータ様から奪い去ったんだって)


『お前には不純な血が混ざっている。だから、お前を愛するものなんてこの世にはいない』


 昔、マルガリータが言った言葉をレイラは思い出してしまう。そんなひどい言葉なんて無視すればいいのだけれど、素直なレイラの心には深く突き刺さっていた。


(愛されたい・・・)


 レイラは抱いてはいけない感情だと思いつつも、そう願ってしまった。

 家の中から聞こえる笑い声。

 3人ともいい笑顔で笑うけれど、その笑顔をレイラには向けることはなかった。いつも、向ける笑顔は見下し、蔑む時だけで、時々レイラは3人が自分に純粋な笑顔で褒めてくれる夢を見ては、朝起きて顔を合わせてがっかりしていた。


「お城にいってみたい・・・」


 世の中には3人ほどいい人間はいないと言われてきたレイラには、なんと傲慢な考えで恥ずべきことなんだろうと思いつつ、外の世界に一縷の望みをかけたいと決心した。

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