31話 女の子の準備は時間がかかる。
「気晴らしがてら、【開発部隊】に行ってみるか」
川津 海未の目的を知り、何もできない自分が不甲斐ない。少しでも彼女の役に立つことはないか頭を抱えてかんがえる。
その結果、俺が思いたいたことは開発部隊に行くことだった。
「取り敢えず、佐々木さんに会いに行ってみるか」
もしかしたら、【
どちらにせよ、異世界からの侵略に、いつまでも防衛に徹していては先はない。
この件は早かれ遅かれ必要になることだ。
ならば、今のうちに相談しておいた方が得策だろう。
「一応、ガイも連れて行こうか……」
ガイが寝ているハンモックを見る。風に揺れながら気持ち良さそうに眠っていた。
お互いの目的のためとはいえ、一番負担が掛かっているのは異世界人であるガイだ。
休める時は休ませてあげたい。
俺はそっとガイの頭を撫でた。
外に出て【開発部隊――佐々木班】を目指す。
「さてと」
門前に到着した俺は佐々木さんに連絡をするため、履歴から番号を選択する。
こういう時に友達が少ないって便利だよな。すぐに目的の人物が見つかるんだもん。
合計したら人生で1時間くらいは差が生まれるんじゃないか? その差が良いか悪いかは分からないけど。
幾分かのコールの後、佐々木さんの声が聞こえてきた。
「この番号を知ってると言うことは裏の取引じゃな」
「久しぶりです、佐々木さん」
電話の主が俺だと分かると、明らかに反応が雑になる。
「その声は――イチモツか」
「遂には小僧すらなくなりましたか」
「それで? 今度は何を売ってくれるんじゃ?」
「あー、その、売るものはないんですけど」
「じゃあ、客じゃないな。また、何かいい素材が手に入ったら連絡してくれ。儂も暇じゃないのでな」
それだけ言って電話が切れた。
こないだの一件で仲良くなれたと思ったが、どうやら俺の勘違いだったようだ。
長年生きているだけあって、不要な関係はお断りらしい。
「……線引きがしっかりしてるな」
ふむ。
一気にやることがなくなってしまった。
諦めて家に帰ろうとしていると先ほど、俺が掛けた電話番号から着信があった。
佐々木さんがなんでまた?
俺は戸惑いながらも電話に応じた。
「どうしました、佐々木さん?」
「いや、それがの……朝日の奴が――。あ、なに分かったから、そいつを儂に向けるない。と、ともかく、朝日を迎えに行かせるから、ちと待ってろ!」
そう言って本日二度目のガチャ切りをされてしまった。
なんだったんだ、急に?
それに佐々木さんにしては必死そうだったしな。
「まあ、でも、また朝日さんが迎えに来てくれるんだよね?」
【開発舞台――佐々木班】の駐屯地前で俺は待つ。
何度見ても独創的な外観だ。
噂ではこの正方形積み木デザインも佐々木さんが考案したとか。手先が器用な人って芸術センスも凄いんだろうな。
俺は手先不器用で芸術の欠片もない。
10分が経過した。
一度も門は開かない。
まあ、予定もないのに急に押しかけたのは俺だしな。これくらいは待つの内には入らないさ。
そうだ。
宗源 カナメと佐々木さんは家族なんだよな。
果たしてあの天才がどうやって生まれたのか聞いてみたいな。
あわよくば【
30分が経過した。
流石に――ちょっと、長いよな?
電話していいかな?
でも、催促してるみたいで、なんか申し訳ないし……。
俺はこういう時の電話が苦手だった。いや、俺だけじゃないか。最近の若者は苦手だと前に何かの記事で読んだことがある。
自分以外にも人がいると安心するよな。
フォールダウン効果だっけか?
なんか違う気がするな……。
後で川津 海未に聞いてみよう。
50分が経過した。
……。
「流石に電話してもいいよね!?」
俺は1人猛然と声を上げて佐々木さんにコールを送る。
「あー、あ、なんじゃ、その、うむ。ちょいと急な案件があってな」
電話に出た佐々木さんは、渋い口調で切り出した。
らしくない話し方だ。
疲れているのが声で分かる。
それほど重要な案件が舞い込んだのか?
「そうですか……。なら、話は後日にしますけど……」
だったら、連絡してくれても良かったのに。
少し不満に思いながらも帰ろうとする。
だが、俺の行動を感づいたのか慌てた様子で引き留める。
「それは……!! それはちょっと待つんじゃ。ちょっとついでにもうしばらく待ってくれれば、必ず! 必ず望月 朝日が迎えに行くからの!」
「いえ、忙しいなら後にしますよ? 予定も確認せずに来た俺が悪いので……」
「いいから! いいから儂の言うことを聞いてくれい! でないと、儂の寿命が縮むんじゃわい! いいか! 一歩もそこを動くんじゃないぞ!?」
「……はぁ」
佐々木さんの寿命が縮むほどの案件か。
余程大きな内容に違いない。
ならば余計に別の日にした方がいい気がするが。
そこから10分が経過し、ようやく門が開いた。
「……?」
立っていたのは、紫に黒い波模様が入ったワンピースを来た少女だった。
膝上15センチのミニから覗く脚が紫と相まって白く輝く。
はて。
こんな人が【佐々木班】にいただろうか?
俺は門から身体をずらして道を開ける。
彼女はおぼつかない足取りで歩く。いかにもハイヒールに履きなれてませんって歩き方だな。
「……あ、あの、お待たせして御免なさい」
俺の横で立ち止まると深々と頭を下げる。
持ち上げた顔を覗いてようやく、彼女が誰なのか理解した。
「望月 朝日さん!」
印象が違い過ぎて――気が付かなかった。
俺の中で望月 朝日は興奮すると壁に頬を擦りつける人だ。
「その、今日はお出かけですか……?」
ここまでお洒落すると言うのは余所行きの予定があるのだろうか?
だったら、俺の出迎えなんてしなくていいのに。
「へ、な、な、なにが? いつもこんな服装だけど?」
「そうなんですか? でも、この前は――」
「この前が特別だったんですよ」
俺が言葉を言い切る前に言い切られてしまった。
確かに望月 朝日とは前回が初めましてだったのだから。その可能性もあるか。
考える俺に言う。
「は、はやく中に入りましょ。この格好で外に出るの恥ずかしいし」
「いつも着てるんじゃ?」
「こ、この格好では外にでないから!」
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