26話 人型
「かぁー。気持ちよく寝て起きたら、もう次の【
「期待しているよ、ガイ」
俺はバイクに乗って夜の風を切りながら目的地を目指していた。腰に抱き着くようにして手を回している川津 海未が風きり音に負けないように声を張り上げる。
「にしても、リキ先輩はバイクも乗れるんですね~」
「まあ、一応ね」
この辺は立花さんの影響がでかい。
友人達がいなくなったことを考えてか、バイクや車で色んな所に連れて行ってくれた。
しかも、【ダンジョン防衛隊】は免許系の取得は推奨しており、比較的安価に受けることができた。
だから、俺は色んな資格試験を受けたりもしていた。
もっとも、殆んどが現場では役に立たない物が多かったのだけど。
そんな話をしていると目的地に到着した。【井上班】が全滅したと言う【
いや、かつて病院だった場所と言うべきか。
10年前から使用されていないようだが、比較的綺麗に見える。
階数は4階で、屋上には名前の付いた看板が空しく主張をしていた。なんで、こんな立派な病院が潰れてしまったのだろうか?
俺達は入口前にバイクを止めて降りる。
周辺には【井上班】が乗ってきただろう車両が何台か止まっていた。
入口から中を覗くが明かりがなく何も見えないし、物音も聞こえない。【
だが、それでも危険であることは変わりない。
なら、川津 海未を一緒に行動させることは危険か。
「川津 海未はここで待機してくれ」
「えー、なんでよ! 私も行かせてよ!!」
「他の所はまだしも、隊員達が全滅したと分かってる場所に、素人を連れていけないよ。それにさ、もし、俺達が負けたら誰がそのことを
「負けるって……」
「ま、仮にだよ。【井上班】の全滅はそれだけ俺にとっては考えられないことなんだ」
「かぁ~。なに弱気なこと言ってんだよ、リキ! 俺とお前が負ける訳ないだろうが!」
ガイはそう言って俺の頭に登った。
「それによ、そんだけ強ぇってことは、これまでの【
「……隊員を容赦なく倒す人間がガイの世界にはいるのか……?」
「まぁ、ヤバい奴はうじゃうじゃいるしな。俺の相棒もキレると手が付けられなかったぜ。なだめるのにどれだけ苦労したことか」
「ガイ師匠がなだめるって――相当なんだね。でも、分かった! 今回は私大人しくしてる」
「なんで、急にまた」
「いや、だってガイ師匠が眠気と涙と戦いながら、「お、俺の世界じゃながった~」って戻ってくるのが目に見えてますから」
「おい、なんでだよ!! じゃあ、ここでお別れになっても知らないからな!」
ガイは俺の頭から川津 海未の頭に飛び移る。そして頭の上を転がり針で川津 海未を攻撃していた。
「喰らえ! 『
「ちょ、ガイ師匠! くすぐったい、くすぐったいってば!」
この2人、楽しそうだな……。
全く。
どういう状況なのか分かってないのか?しかし、まあ、暗い雰囲気になるよりはマシか。
俺は回るガイを掴んで言った。
「はいはい。おふざけはその辺にして、行くよ、ガイ」
廃墟となった病院の中に入る。
森の中で入口の扉が開いたままになっていたからか、枯葉や土が中に散乱としていた。しかし、外観と同様に大きな痛みはないらしい。
待合室として使われていただろうホールには【
俺はスマホのライトを動かしどちらに行くか考える。
誇りと錆びの匂いが鼻を抜ける。
階段を見つけた俺は階を登っていく。
二階は入院施設として使用されていたのだろうか。部屋がいくつにも別れていた。一部屋ずつ中を確認していくがなにもない。
「おいおい。本当に【
「だったらいいんだけど……」
【井上班】の全滅なんて考えたくもない。
二階の探索を終えて三階に足を踏み入れた。
三階は食堂や売店だったのだろうか。
椅子やテーブルが綺麗に配置されており、売店には古くなった雑誌などが置かれたままになっていた。
「お、食堂じゃん。なにか食えるもんねぇかな?」
「いや、あるわけないでしょ?」
「まあまあ。どうせ厨房も探さなきゃいけないんだ。俺が行ってきてやんよ――」
ガイはそう言ってちょこちょこと厨房に向かっていった。
どれだけ空腹だろうとも、廃墟の食料は漁らない方がいいと俺は思うけど……。明かりで周囲を照らし観察する。
すると――、
「痛ぇ!!」
ガイの声が聞こえてきた。
まさか、敵か?
「ガイ、大丈夫か!?」
「ああ。ちょっと
俺は厨房に入りガイを照らす。
そこにあるのは、細切りにされた人肉だった。
「これは……」
血だまりと隊員服が無ければ人であったことも分からぬような状態。
よく見れば足元も赤く乾いた血液がこびり付いていた。
山のように積み上げられた死体は、誰が誰かも分からぬまま、切り刻まれ、積み上げられていた。
「リキ!!」
ガイが俺を見て咄嗟に【鎧】にへと変化する。
その瞬間――「ガン!」と背後から衝撃が走った。
「くっ!!」
倒れそうになるが堪え、狭い厨房から飛び出していく。
着地の瞬間、足になにか粘着質な違和感があった。恐らく厨房に入った時に【井上班】の血液が付いたのだろう。
だが、今集中すべきは【
【
「こいつが……?」
その【
逆さになるように羽を広げ、不気味な笑みを浮かべていた。
『おい、こいつって――人間じゃねぇか!?』
ガイの言う通り、その【
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