27話 未知の強敵

『へっ。ほら、見ろ。やっぱりな。これが俺の世界への扉だよ。なあ、あんた、あんたはどこに住んでたんだ?』


「……」


 ガイは【鎧】の姿のまま、人の姿をした相手に話しかける。

 だが、相手は無言のまま身動きすらしない。


「ねえ、確かに人の形はしてるけどさ、本当に……人間なのか?」


 暗さとぱっと見では確かに人間に見えた。

 だが、改めて落ち着いてみると俺には天井にぶら下がる相手は【魔物モンスター】にしか見えなかった。

 黒い羽根をマントのようにして身体を覆う。

 その姿はまるでコウモリだ。


『多分、人間……だろ。俺らの世界にもあんな感じの人間は――いたようないないような』


「自分の世界のこと忘れたのかよ?」


『うるせぇ! 俺の世界には変わったのが多かったんだよ! あんな人間の1人や2人、探せばいるぜ!』


「そうなんだ――。って、危ない!!」


 俺とガイが話をしていると、コウモリ男は突如目を見開いて、閉じていた手を開いた。

 手の動作にリンクし、俺達に向かって斬撃・・が飛来した。


『なっ! こいつ……いきなり!!』


 斬撃を回避した俺は羽を広げたコウモリ男を見る。

 手は完全に翼と一体になっている。

 だが、翼にを支える指は湾曲した刃のように鋭い。5本の刃が窓から覗く月明かりに微かに煌めく。


「あれは……【蟷螂獣マンティスコア】?」


 コウモリ男の持つ羽と刃は【蟷螂獣マンティスコア】と名付けられた【魔物モンスター】の特徴と一致していた。

蟷螂獣マンティスコア】は、カマキリとコウモリが合わさった【魔物モンスター】だ。

 だが、そのサイズは小さく、どちらかと言えばカマキリにコウモリの羽が合わさった姿に近い。

 コウモリ男のような人型をした【魔物モンスター】ではなかった筈だ。


 これは一体どういうことだ?


 俺の思考を妨害するようにひたすら斬撃を繰り出すコウモリ男。

 隊員達を切り刻んだのはこれか原因か。

 遠距離から放たれる斬撃。


『ちくしょう、やっぱり、こいつも俺の世界の奴じゃないのかよ! 話もロクに通じねぇじゃねぇかよ!!』


「まだ、そんなこと考えてたの!? 明らかにこいつは異常だよ! 【蟷螂獣マンティスコア】が、こんな技を使うなんて情報なかったぞ」


 俺が知っている情報では、小さな身体で飛び回り、羽に付いた5本の刃で切りつけることが主な攻撃手段だった。

 単調な攻撃。

 小さな身体。

 それゆえに戦闘力はそれほど高くない、【小鬼ゴブリン】に毛が生えた程度だと報告されていた。複数の班が同意していたから間違いはないだろうけど――。


「やっぱり、こいつは違うのか?」


 無数の斬撃が壁を切り刻む。

 病院だからそう簡単には崩れないだろうが、このままではいつ崩れるか分からない。

 俺は斬撃を回避しながら屋上に向けて階段を登っていく。


『おいおい、逃げたってどうにもならないぜ?』


「それは分かってるよ!」


 屋上へと誘いこんだ俺はコウモリ男と向かい合う。

 相手の武器は飛ぶ斬撃か。

 けど、この【鎧】で防御は出来るんだよな。

 最初に受けた背中がまだ痛むけど。


「でも、無傷で勝てるほど甘くはないか……。いくよ、ガイ!」


『ああ!』


 俺はクラウチングスタートのように腰を落として一気にスタートを切る。

 直線的に駆ける俺に斬撃を放つ。

 両腕を交差させてただ、ひたすら突き進む。

 痛みを受ける覚悟があれば耐えられない威力じゃない!!


『鎌には鎌って訳か! 行くぜぇ、【ひだり薙撃ていげき】!!』


 肩を開いて肘を曲げる。

 腕自体を大きな鎌に見立てて振るう。

 プロレスで言うところのラリアットだ。


 だが――。

 俺の腕が当たるよりも先に、コウモリ男は羽を広げて空を飛ぶ。


「くそ! この速さでも駄目か……!」

 

 攻撃を終えて動きを止めた俺に対して上空から斬撃の雨を振らせる。

 俺は走った距離を一歩、二歩と大きく後退して避ける。


「手も足もでないとはこのことか」


 俺とガイは遠距離攻撃を持っていない。

 それは俺も分かっていた。

 だが、それでも攻撃が全く通用しない相手はいなかった。それだけ、上空を舞うコウモリ男が強いってことか。


『こうなったら、二重装甲でさっさと勝負を付けようぜ!』


「そうしたいのは俺も同じ気持ちなんだけどさ、今持ってるのって【口蝸牛マウスネイル渦殻うずから】だけだよね」


『……防御向けじゃねぇか!! 意味ねぇ!!』


口蝸牛マウスネイル渦殻うずから』を使用して見込めるのは防御力の上昇と言ったところか。


「防御力を上げて、相手の隙が大きくなるのを狙うか……?」


 現状を打破するためにその策を使って見るのも悪くない。

 だが――相手はこれまでにない【魔物モンスター】だ。

 俺達の思惑通りに動いてくれるのか?


『おい、どうすんだよ! なんもねぇなら、アレ使うぞ!』


 ガイがそう言って意識を集中した時、

 

「そこまでだ!」


 屋上に響く声があった。

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