22話 ツァイガルニク効果

『うげっ! なんだよ、こいつ、気持ち悪いって、さっさと倒そうぜ!』


「言われなくてもそのつもりだよ!」


【鎧】を纏った俺達の前に現れたのは、渦巻く殻から巨大な口と二つの目を飛び出させた蝸牛のような【魔物モンスター】だった。

 こいつの名前は確か【口蝸牛マウスネイル】だったけな。

 殻に籠って獲物に近づき、巨大な口で一飲みする。

 防御力だけで言えば、【骨蠍スカーピオ】と同格だろう。

 もっとも、こいつは殻に籠れば動きは留まるし、それ以外の部位は柔らかい。

 狙い撃てば【特殊装甲】を使わなくても勝てる相手だ。


「んじゃ、まあ、やりますか」


 雨が葉に落ち不気味に鳴く森の中。

 ぬかるんだ地面に足跡を残しながら、俺は【口蝸牛マウスネイル】に近づいていく。

 殻に籠り伸ばした二つの目で俺の様子を伺う。

 歩く姿勢をそのままに、滑らせるように足を動かして一気に加速する。

 これは主に剣道などで使う足捌きだ。

 急なリズムの変化に対応できなかったのか、【口蝸牛マウスネイル】は殻から出た目を引っ込めるのが僅かに遅れた。

 俺はその目を両手で掴んで殻ごと空中に持ち上げる。


双投撃そうとうげき!』


 握った目を中心に円を描くように持ち上げ、殻を叩き割るようにして地面にへと叩きつけた。

 泥は跳ね飛ばしながら「ミシリ」と殻にヒビが入る。


「いや、普通に背負い投げなんだけど」


『へっ。細けぇことは気にすんな。格好良ければ全て良しだ!」


 格好いいか?

 双投撃そうとうげき

 ガイは漢字並べればいいと思ってる節あるよね。

 ネットでバズった○○と言えばなんでも流行だと喚きたてるテレビ局かのようだ。


「にしても、やっぱり固いか。ヒビが入るだけって」


『でも、まあ、勝負ありだな』


「ああ」


 防御が長所の【魔物モンスター】。

 その殻にヒビが入れば、それはもう裸の王様だ。……裸の王様に無防備って意味があったかどうかは知らないが。

 俺は、木々を利用して空中にへと飛来する。

 身体を縦に回転させながら落下し、殻にこもって地面に転がる【口蝸牛マウスネイル】に、踵を叩きつける。


右脚うかく砕撃さいげき!』


 殻が泥と共に砕け散る。

 泥で固められた【ダンジョン】が消えていく。


「よし。これでここは安心だな」


『ああ、にしても、俺の世界はねぇな……。いつになったら会えんだよ……』


 ガイは今回もまた、知らぬ世界と繋がった【ダンジョン】だったと肩を落として【鎧】を解除する。

 両手両足を俺の頭の上で投げ出して眠りに入る。


「いやー。面白い形の【魔物モンスター】だったね! ていうか、前から思ってたんだけど、先輩って【魔物モンスター】に詳しいよね」


「まあ、言うほど詳しくはないけど、倒すためには必要だから」


「ひゃー、格好いい! 私も言ってみたいよ。「倒すためには必要だから」」


 キリっと表情を作って呟く川津 海未。

 あれ、これ、俺ディスられてます?

 完全に遊ばれているよね?


「あ、あの……川津 海未さん?」


 自由奔放さは数か月共に過ごしてもちっとも変わらない。

 予知された漫画を閉じて残念そうに振る。

 降ったところで続きは読めないけどな。


「あ、もうこれで送られてきた漫画、全部終わっちゃった! 続きが気になる~。ツァイガルニク効果狙ってる~!」


「ツァイガルニク効果……? ああ、禁止されるとやってみたくなるアレだね」


「いや、続きが気になるように、引っ張たりすることだけど……」


 因みに禁止されるとやってみたくなるのはカリギュラ効果だよ。

 勝ち誇った顔で付け加えられた。

 前もこんなことあった気がするけど、何故、川津 海未はこんなにも詳しいのだろうか?

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