追放サイド 4話 たった一人の防衛と憎悪


ダンジョン】が出現したと言う場所は、他県と都心を結ぶ巨大な橋下の河原だった。砂利が敷き詰められた河原。

 下から橋を見上げると、水色の液体が粘り付いていた。


「大丈夫、相手は【スライム】だし、今の僕には【特殊装甲】もある」


 一人でも防衛できると言い聞かせるさかん

 いつ【魔物モンスター】が現れるか分からぬ中、一人、足に力を入れて見張っていると背後から声を掛けられた。


「怒り。憎悪? 君――いい憎悪をしているね」


「は?」


 柔らかな声に振り返るとそこに立っていたのは、銀色の髪をした少年だった。

 年齢は10代前半。

 波打った髪が風に揺れていた。


「君。ここは今、危ないから離れた方がいい」


【磯川班】は出勤していなくても、後方支援の班は活動しているはず。

 こんな子供を現場に入れるなんて何をしているんだと思いながら、直ぐに離れるように指示を出す。


「危ない。危ない? 君の方が危ないよ? ――今にも憎悪が溢れそうだ」


「うん? いや、心配してくれてありがとう。でも、僕は隊員だから大丈夫だよ。いいから、ほら、早く逃げるんだ」


「逃げる。逃げる? 僕は逃げなくても平気だよ? でも、君は面白いから言うこと聞いてあげる」


 少年はいいながら、ゆっくりと歩いて消えていく。

 と、同時に【ダンジョン】からスライムが落ちてきた。

 数は三匹。

 砂利の上でゲル状の身体を震わせる。


「見ててくれ、妹弟みんな!」


 さかんはポケットにしまったお守りに触れる。妹弟きょうだいを思えば――怖いことはなにもない。

 さかんは特殊装甲に【小鬼ゴブリン】の素材を使用する。右手に力が漲るのを感じる。

 スライムが身体を縮め、反動を利用して飛び掛かってきた。【スライム】と戦うときに置いて気を付けるのは体内に飲み込まれないこと。

 飲み込まれると溶液を分泌して吸収しようとする。


「でも、それさえ気を付ければ大したことはない!」


 飛び掛かってきた一匹を【特殊装甲】を付けた右腕で掴み握りつぶす。液状の体は容易く飛び散り砂利に染み込み消えていった。


「二匹目!!」


 今度は自分から殺してやるとさかんは一歩前に出る。二匹当時に飛び掛かってきた。

 振り払うように右手を弧を描くように薙ぐ。

 吹き飛ばされた【スライム】達は一匹目と同じように砂利に消えた。


「一人でも、兄ちゃんは強いぞ」


 倒したと顔を上げる。

 見上げた先には【ダンジョン】が。

 開いたままの【とびら】から数十匹の【涅《スライム》】がさかん目掛けて落下する。





【磯川班】。

 そう刻まれた門の前を左右前後に歩き回る少女がいた。

 胸まで伸びた髪をツインテールにし、リボンの付いたカチューシャを頭にのせる少女。

 年齢は中学生くらいだろうか。

 数時間、歩き回った後に意を決して門に近づくと近くを歩いていた隊員に声を掛けた。


「あ、あの……。お兄ちゃんさまは大丈夫ですか?」


「お兄ちゃんさま?」


「あ、はい! いつも私たちを養うために無理をして。だから様って呼んでるんです!」


 目を輝かせて少女は言う。

 だが、隊員が聞きたかったのは呼び方の理由でなく兄が誰なのかと言うことだった。戸惑う隊員の表情にそう気付いたのか、顔を赤らめて「さかんです……」と苗字を名乗った。


「ああ、はいはい。メ――じゃなくて、さかんくんね」


 隊員が少女と話していると、その背後から目つきの悪い別の隊員がやってきた。

 ツーブロックにオールバックをした隊員。

 岩間だった。


「おい、俺が対応する。お前は下がってろ」


「は、はい……。分かりました」


 岩間の指示に従い門から隊員。隊員に向けた鋭い視線を和ませて岩間は言った。


「ごめん。彼、これから仕事が有ってね。代わりに僕が対応するよ。で、お嬢さんはさかん隊員の妹なんだよね?」


「はい! そうなんです。毎日連絡してくれてたんだけど、ここ数日は既読も付かなくて」


 腕に抱いたスマホを強く握る。

 幼い顔の割に発達した胸が揺れる。

 幼い顔に反して発達の良い肉体。


(メスイヌの妹なのに顔と身体、100点じゃねぇかよ)


 下で唇の端を舐める。

 岩間はどうやって自分の物にしようかと考えながら、品定めを終えた少女に応えた。


「実はさかん隊員。【ダンジョン】の防衛で少し怪我をしてね。今、寝込んでいるんだ」


「な、なんと!? そんな……。お兄ちゃんさまは大丈夫なのでしょうか!?」


「うん。命に別状はないよ。でも、ごめんな俺が助けに入るのが遅れたせいで……。【特殊装甲】を持ってるのに申し訳ない」


「そんな! 謝らないでください。危険はあるの私も知ってますので」


 一人で行かせたことを隠し、更には手柄をも捏造する岩間。

 夜になっても戻ってこなかったさかんの様子を見に行くと、全身の皮膚をただれさせ倒れていたのが現実だが、不利な情報は話さなくてもいい。


「いい妹さんを持ったね、さかんくんは」


「いえ、お兄ちゃんさまの妹で私は幸せなのです。あの、隊員の方にこんなお願いするのも図々しいと思うんですけど――」


 少女は言い難そうに言葉を詰まらせ、勢いよく頭を下げた。


「お兄ちゃんさまは、妹弟きょうだいのために、絶対無謀なことをするんです。だから、その時は止めて上げてくれませんか?」


「ああ、分かった。僕に任せてくれ。それで、今後、こういう時があった時のために、連絡先を交換しておいた方がいいと思うんだ」


「そうですね! お兄ちゃんさまはどうせ無理してまた寝込みますから!」


 岩間と少女は画面を見せあい連絡先を交換する。


さかん はるかちゃんって言うんだ。あ、高校生なの?」

 

 プロフィールにはこの辺りでは名の知れた進学校の名前が入力されていた。

 しかも、高校三年生らしい。

 見た目から中学生だと思っていたが、尚更、タイプだと岩間は胸が高鳴った。


「はい、よく、中学生と間違われるんですけど……。あ、あの、それでは兄をよろしくお願いします!」


「ああ、任せてくれ」


 手を振り少女を見送る岩間。

 笑顔の下にはどうやって少女を犯すのか。

 その事ばかり考えていた。

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