追放サイド 3話 メスイヌ
自分に対する隊員達の態度が変わっていると感じていた。
それがはっきりと分かったのは訓練が終わった時のことだった。使用した銃器を分解し、油を差し始めた
「よ、
放り投げた主は浅田。【磯川班】二人目の【特殊装甲】の持ち主だった。
自分で使用した銃器は自分で整備する。
それが当たり前だと
だが、それを見た他の隊員達も浅田と同じように
「じゃあ、俺のも」
「俺のも頼むわ」
銃器を置いて去っていく隊員達。信じられないと
だが――。
「先輩たちを休ませるために
そう言い残して出て行ってしまった。
この場に誰も味方はいない。
自分の銃器の手入れだけならば1時間で終わる。だが、目の前に置かれた銃器は隊員9名分。
単純計算で早くても9時間以上は掛かることになる。
現在の時刻は19時40分。
終わるのは朝ということか。
「こんなことなら、【
いや、駄目だと自分の行動は正しかったと首を振る。
防衛隊のルールに背き、減給やクビになるのは避けねばならない。
全ては
長男として
隊員達が起床する時間だ。眠気と空腹で足元がふらつく。これでは今日の訓練は休んだ方がいい。
食堂に入ると既に食事を終えた隊員達が椅子に座り楽しそうに談笑していた。
気まずいと感じながらも、
意地の悪い視線に振り返りながら
「あの、僕の食事は――」
「頑張ってくれてたからな。特別に用意したんだよ」
岩間が応えながら隊員の一人に指示を出した。持ってきたのは犬用の食事皿にごちゃごちゃに混ぜられた食事だった。
皿を受け取った岩間は床に置いて
「ほら、食えよ」
「……これはどういうことですか?」
「規則に従う女々しい犬――メスイヌくんにお似合いだろ」
「メスイヌ?」
「そ、目って名前で犬みたいに順重で女々しいお前にピッタリだろ?」
岩間の言葉に隊員達が「メスイヌ~!」と手を叩いて煽った。
なるほど。
これが――この班のやり方か。
「なるほど。ここはこういう班なわけですか。子供みたいな班ですね」
「子供みたいって。メスイヌくんは酷いこと言うなぁ。だってさ、前いたセナカくんは一人で整備くらいは普通にやってたぜ?」
「……自分から進んで背を向ける人と僕は比べられたくない」
そんな臆病者のことは知らない。
【
「でもよ。セナカくんは今のお前よりも立場は上だったぜ? ちゃーんと、俺達の言うことをこなしてたから、【特殊装甲】任されてたしな。今のお前は役に立たずに吠える――まさに犬だ」
そう言い残して隊員達は去っていく。
床に置かれた皿をテーブルに置き、悔しさに震えながらも
「僕は――僕のやり方で超えて見せる」
ただ従うだけしか出来なかったセナカとは違う。
◇
「磯川班管理地区に【涅《スライム》】の【
【磯川班】の基地に放送が響いた。
誰よりも早く戦闘服に着替え車庫に向かった。
ここから出現場所まで隊員達が集まり移動するのだが――車庫にいるのは一人。
いつまで待てども他の隊員は来なかった。
「班長! 出撃要請が出ているのになんで誰もこないんですか!?」
『ああ。そうだな。だが、俺達は【
「なっ……」
この班は完全に腐っている。
強い【
それなのに――。
「そんなこと言ってる場合ですか! こうしている間にも【
切迫した
『そうか。威勢がいいな、メスイヌ。だったら、お前一人で行ってこい』
「一人で……?」
「安心しろ。【特殊装甲】を持たせてやる。ここを一人で防衛すれば今後、その【特殊装甲】はお前に任せよう」
「……」
『どうした? 行かないのか?』
自分が【ダンジョン防衛隊】に所属したのは、給料の良さに引かれたからだ。
自分が上を目指すのはもっとお金が必要だからだ。
大した才能のない自分が金を稼ぐには命を掛けるしかない。
「行きますよ! そして、僕がこの班のトップになる。だから、あなたはそこで踏ん反り返って見ていてください」
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