追放サイド 1話 新しい標的
肺に空気が送られ
人前で話すのは――ましてや、初対面の大多数の前に出るのは緊張する。
学生の時からそうだった。
「けど、今は違う。妹達のためにも頑張らないと」
自分に言い聞かせるように呟き、ポケットに入れたお守りを握る。
姿も知らない神様より、絶対効果があると優は喜び受け取った。
「兄ちゃん、命がけで稼ぐからな」
震えが収まった
【ダンジョン防衛隊――磯川班】と刻まれていた。
「クビになった隊員みたいに逃げることは――僕は絶対にしない」
【磯川班】に配属されるにあたり、人員が不足した経緯に付いて聞かされていた。
敵を前にして背を見せ逃げだしたと。
その話を聞いた時に
「そんな余裕があるんだ」
と、羨ましく思った。
逃げ出しても誰も困らない。
だから逃げられるんだ。
だから、自分は絶対に逃げないし、死なないと決意をして【磯川班】の門を開いた。
「は……?」
自身が思っていた【ダンジョン防衛隊】と全く違う姿に驚く。
【
来る場所を間違えたのかと何度も名称を確認するが、何度見ても掲げられた文字は変わらなかった。
「お、来たな。新人。今日はお前のためにパーティーしてんだよ」
酒瓶を片手に一人の隊員が
この人は確か――岩間隊員だ。
【磯川班】で【特殊装甲】を任されている人物で、もう一人の浅田隊員とのコンビネーションが光ると資料には書かれていたが……。
赤らめた顔で、酒瓶を掲げる岩間は、とてもそんな人物には見えなかった。
「パーティーだなんて......それにお酒をそんなにのんで大丈夫なんですか?」
【
心配する
「なーに、心配してんだ。金、金か? 安心しろ。こないだ倒した【
酒臭い息を吐き出しながら豪快に笑う。
この人達のペースに吞まれては駄目だと、隊員達が集まる中心で
「始めまして! 自分は
唐突に始まった威勢のいい挨拶に【磯川班】の隊員達は笑って手を叩く。
隊員達の真ん中。
一際大きな椅子に座っていた人物が、ゆっくりと立ち上がり近寄ってくる。
「磯川班長!」
これが【
伸ばした姿勢を更に伸ばす。
「元気がいいやつは嫌いじゃない。共に【
「は、はい!」
差し出された手を握る
勤務時間中に酒を飲んで騒いでいるのは納得は行かないが、普通の班と違うことをしているからこそ、常人じゃできないことをやってのけた。
自分の凝り固まった思考を捨てて、この輪に馴染まなければ。
自ら進んで酒瓶を手に取り、仲間となる先輩たちに酒を注いでいく。
(上手く立ちまわって成果を上げる。それが世の中で一番賢い生き方だ。俺はこれまでそうやって妹弟(きょうだい)のために生きてきた。自分のプライドは二の次だ)
【磯川班】の面々と交流を深めていると、駐屯地にアラームが響く。
感覚が長く鐘のような音。
これは他の班からの救援要請だ。
それに対応するためだろう。
磯川が携帯を取り、地域を管理している【隊長】に連絡をする。
「救援要請? 【
【
しかし、流石、【
国から頼りにされているのかと感心をするが、優の思いを裏切るようにして磯川は言った。
「俺たちは今、忙しいんだ、そんなに強敵なら、それこそ世界最強の男、【
それだけ言うと磯川は電源を切った。
優は辺りを見渡す。
これが――忙しい理由か?
酒、肉。
しまいには、誰が呼んだのか、門の外から派手な格好をした女性たちが、隊員以外足を踏み入れることを許されない駐屯地に、慣れた足取りて踏み入れてきた。
こうやって呼ばれるのは一度や二度じゃないのが一目瞭然だ。
「……気にしちゃだめだ」
こんなところで指摘して、仲良くやっていかねばならない先輩たちの反感を買っては駄目だとお守りを握る。
特別なことをしている。
だから、結果が出せた。
今、必要なのはそれだけだ。
人の粗を探すのではなく、良い部分を吸収するんだ。
「えー、こいつが今日から俺達の仲間になった
浅田が
一人の女性は優のことを気に入ったのか、
「あら、凄い優しくて可愛いじゃん。私、こういう中性的な子大好きなのよね~。私にだけは、お盛んになっていいんだからね」
「は、はぁ……」
「あ、なに困ったような顔してんだよ。さては、お前、実は女の子だな!」
浅田の突っ込みに周囲は一斉に笑い声を上げる。
(お兄ちゃんは頑張るからな、
お守りを握り、
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