第7話 雑談

「小学校の頃といっても、俺達は少々特殊なんだよ」


「特殊、ですか?」


 そう言いながら詞音は首を傾げた。


「ああ。と言うのも俺達は、10歳まで海外で過ごしていたんだ」


「そうなんですか…!それはどうして?」


「両親の仕事の都合でな。色々な国をついて回っていたんだ」


「それは…特殊ですね。…あれ?達、ということはお二人もそうなのですか?」


 詞音は二人の方に顔を向けながらそう言った。


「貴方の考えている通りよ。私たちの両親も海外での仕事が多いのよ」


「それに、職種も近いから、一緒に海外に行くことが多かったんだよね~」


 蓮は「多かった」なんて言ってるが、実際は全て同じだった。海外に行く日にちも、行く場所も、帰る日にちもすべてが同じだった。昔は何も疑問に感じなかったのだが、今となっては謎でしかない。まぁ、気にしたら負けだな。


 因みに、蓮の父親はスタントマン、母親は作曲家、美月姫の父親は作家、母親はピアニストをしている。


「んで、いろんな国をまわって、もう自分たちがいなくても一通りできると思ったんだろうな、10歳の時に両親から『もうお前は一人でもある程度やっていけると思うから、日本に残ってもいいぞ』と言われてな、残ることにした。たぶんあいつらもそん感じのことを言われたんだろう」


「うん、言われた~。どっちにしようか迷ったけど怜が残るって言うから残ることにしたんだ~」


「そうね。私も言われたけど、二人が残るって言うから残ることにしたわ」


「……皆さん、とても仲が良いのですね」


 頬に手を当てながら詞音はそう言って微笑んだ。だが、その顔は少し悲しそうで、その眼は羨ましそうにこちらを見ていた。

 

 ほんの数日しか関わっていないが、詞音は結構顔にでるタイプだと思う。表情にはほとんど出さずないが、時折、こうやって話をしていると、羨ましそうにこちらをみていることがある。


(この手のものは心の奥底まで根が張っていることが多い。下手に踏み込めば二度と歩み寄ることすらできなくなる。二人もそのことは解っているだろう。今はまだその時ではない。な。)


 などと考えながら二人の方をチラリと見ると、蓮は、面白いものが見れそうだという顔を、美月姫は、また面倒事に首を突っ込もうとしてという呆れ顔をしている。

 

 確かにこういうことに首を突っ込んだことは1度や2度ではないが、だからといって見過ごすことはできない。…まぁ、そんなんだから面倒臭いことに巻き込まれるんだけどな。

 そんなことを考えていると、詞音が質問を再開した。


「…ですが、それだと周りから浮いてしまうのではないのですか?」


「あぁ、そこは大丈夫。慣れてるから」


「そういう問題ではないと思うのですが…」


 詞音が呆れたようにそう言った。

 仕方ないだろう。どこに行ったってそんな感じの扱いをされるのだから。


「それに、習い事もやっていたしな」


「習い事ですか…、それは何を?」


「柔道、剣術、ピアノ、ヴァイオリン、かな」


 今までやってきた習い事を挙げていくと、詞音が目を輝かせながらこちらを見ていた。


「柔道に剣術ですか・・・!どうりでお強いわけです!でも、習い事で剣術というのはあまり聞いたことがないですね。それにヴァイオリンというのも男性がやっているというのは珍しいですね。なぜやろうと思ったのですか?親戚の影響ですか?それとも有名な人の影響ですか?」


 と、なぜか詞音が饒舌になった。たぶんこの手の話をできる人がいなかったのだろうな。先程とは打って変わって目が輝いている。


「母親がプロのヴァイオリニストでな。その影響だ」


「やっぱり・・・!羨ましいですね」


「詞音もやっていたのか?」


「そうですね。私も小さい時からやっていましたね」


 そうだろうな。ヴァイオリニスト特有の、右手人差し指第一関節と第二関節の間に弓タコがあったり、深爪だったり、相当やってきているな。それだけ好きなんだろうな。


「詞音は他に何か習っていたのか?」


「そうですね・・・、他には、ピアノとか、ですかね。あとは、書道とか華道とか

ですかね。後は乗馬とかもならっていました。幼少の頃は遊び相手がいなかったものですから、習い事しかやることがなかったんですよね」


 ・・・何故こいつは時々闇を見せてくるんだろうか。無意識なのだろが地雷を踏んだのかと思ってドキドキするからやめてほしい。


「・・・って、さっきから私の話しかしていないじゃないですか。もっと皆さんのことを教えてください」


 詞音からそんな抗議が入った。確かに後半は俺達のことはほとんど話していなかった。だがなぁ・・・


「そう言われても、もうほとんど話すことはないんだよな。中学の時だって似たようなことしかしてないしな」


「本当ですか・・・?」


 詞音は怜に懐疑の目を向ける。


 そんな目を向けられても、運動も勉強も他の奴らよりもずば抜けてできていたし、顔も整っていたからから異性にモテて同性に仲間外れにされて、告白されたらいじめを受けただけだからあまり変わらないんだよな。


「本当だ。それより今度はそっちの番だ。詞音の話、聞かせてくれ」


「・・・分かりました。私の幼少の頃は「「「「だ~!!ついた!!」」」」え?」


 詞音が語りだそうとしたとき、足音とともにくたびれたような声が聞こえたので、音のする方に首を向けると、先ほどまで校内を回っていた1年生が大勢いた。

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