第8話 妙な扉

 「そろそろ、遺跡の階層に着きそうだ」キルガが眩い光を放ちながら言った。照明呪術ライトニングを使う者は世の中に星の数ほどあれど、こんなに眩い光を放つやつは初めてだ。キルガは補助呪術エイド・スペルが得意なんだろう。そういうのは性格がかなり影響する。


 「詳しいな」マルブランクは酒を一袋飲み干していていい気分だった。


 「俺とドノヴァンは遺跡が始まる所まで見に来たんだ。それからは進まずに引き返したが。その時は怪物には出くわさなかった」キルガの顔はこわばった。


 「なんで引き返したんだ?」とマルブランク。


「少し見に来ただけだったからさ。最初の兵士、救助に入った兵士、傭兵、みんな帰って来なかったから、すぐ帰るように言われていたのさ」


 「ふーん、ん?これか」一行は立ち止まる。最後尾のターシャルでさえ、そこから一気に変わる雰囲気に身震いした。


 空気が心なしか冷んやりしている。


 「なるほど」マルブランクはドノヴァンの脇をすり抜けて歩む。そして次にコンスタン。


 「みんなここから、勇気を出して踏み出したんだな。いい空気だぜ」マルブランクは渇いた笑みを浮かべた。なかなか不気味な所だ。青白い切石を敷き詰めた回廊は、我々の灯りが届く所まではまっすぐ伸びている。等間隔で梁があしらわれていて、明らかに人工物である。


 「この石は人が切ったのだろうか」コンスタンが珍しく何かに興味を持って喋った。


 マルブランクは思った。チャチャを入れるのはよそう。また嫌われる。


 「綺麗に切ってあるな。昔の人間が敷き詰めたとすればかなりの労力だったに違いないよ。よほどの物があるのかなあ」マルブランクがそう言ったが、コンスタンは反応しなかった。


 5人はまた歩き出した。硬い靴の甲高い音が反響しだす。回廊の幅は大人3人分くらい。やはりドノヴァンを先頭に、マルブランク、コンスタンと続いた。


 少し歩くと、向こうの暗がりに突き当たりが見えた。それが少しずつ近づいてはっきりしてくると、突き当たりではなく、扉である事が知れた。青白い石の壁に同じ色の扉。それも同じ材質で出来ていて、どうすれば開くのが分からない。扉に隙間などほとんどないくらいにぴったり収まっていた。


 その上には文字が掘られている。それは自分達が使うものとは違っていて、似てはいるが読めそうもないものだった。


 「知らん文字だ」ドノヴァンが見上げて言った。


 「どれ」キルガがドノヴァンの前に立つ。「これは……古代エイヴァリアン人の文字だと思う。いくつかは見たことがあるから。しかし読めん」



 「" 汝 空を見よ 地を見よ 

   隣人を見よ 親を見よ 兄弟を見よ

   それを敵と思え 味方と思え

   全ては逆 全てはその逆"」


 「マルブランク、あんた……」ドノヴァンとキルガ、ターシャルは目を輝かせながらマルブランクを見た。コンスタンは無表情。


 「ここはやはり古代にこの地方を支配したエイヴァリアン人の遺跡なんだな」マルブランクは扉をしげしげ見つめながら言った。


 「高い文明を持っていたとされる文明だよ。彼らが開発したとされる魔導もあるくらいだから」キルガは扉に触ってみる。しかし、重そうな石の扉は動きそうにない。


 「これは扉を開けるためのなぞかけか?」とコンスタン。


 「まあ、そうだろうな。しかし、そんなに難しいなぞかけではないだろうよ」そう言うと、マルブランクはを触り始めた。「なんだ。つまり扉に見えるこれは開かない」


「ん」キルガは何かが擦れる音がした。


 マルブランクが扉の横の壁を押すと、扉を縁取って手の平くらいの壁が奥にずれて、扉だと思われた物がただの石板になり、横から人1人がすり抜けられるほどの隙間が出来た。


 「おお」とドノヴァン。


 「ターシャル、車は通れるか?」マルブランクが訊いた。


 「多分、ギリギリ通れます。持ち上げて縦にすれば」


「よし、行こう」マルブランクは横歩きで奇妙な形の扉を潜った。


 


 

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