第9話 古代人の信仰

 広い空間に出た。天井が高くアーチになっている。ここは神殿だろうか。


 真ん中に通路があり、それは奥の祭壇のようなものまで伸びていた。その左右には何やらオガクズのようなものが散らばっているみたいだったが、朽ち果てた木の腰掛けだろうか。壁には石の燭台のようなものが等間隔で並んでいる。


 部屋全体が青白く不気味だった。


 マルブランクはどんどん奥へ進んで行き、祭壇までやって来た。他の4人は大事なのかと恐る恐る歩く。罠がありゃしないか。


 「大丈夫だよ。ここは古代エイヴァリアン人の信仰の場所だろうな。恐らくここまでは一般人も入り込んで祈祷をしたりしていたんだろう」そう言いながらマルブランクは放屁した。


 コンスタンはげんなりする。ターシャルはクスクス笑っていた。


 「問題はここからなのだな。ここまで先に来た冒険者達の亡き骸はなかった。まだみんな進んだという事か」キルガが顎を擦った。


 マルブランクは祭壇を見た。長い年月にさらされて残るのは立派な石の台、その奥にまた段々になった台。何かがお供えされていたのか。それの一番上の段は大きさだ。


 「古代エイヴァリアン人がなぜこんなところに信仰の場所を作ったか知っているかい?」マルブランクは道を探した。この広間に先に通じる道がある。


 「さあ、そこまでは……」キルガは首を傾げる。


 「人身御供の習慣があったからさ。その昔我々の祖先か、はたまた違う民族に忌み嫌われて、こういった人気のない穴に追いやられた。古代エイヴァリアン人はこんなに石をツルツルに切る技術がありながら、見つかる遺跡といえば辺境の薄暗い穴蔵ばかり。その習慣を捨てずに滅んでしまった」


 「物知りだな」コンスタンは横歩きで壁を調べた。


 「考古学だな。俺の仕事は過去を知る事から始まる。それを掘り下げていくんだから」


「たがら自分の未来に興味が薄いのか」コンスタンがそう言うと、マルブランクは嬉しそうに高笑いを上げた。


 「なじられるのが好きなの?」ターシャルが不思議そうに言った。


 「そういうやつもおる」ドノヴァンがボソリと呟いた。


 「あったわ」コンスタンが声を張り上げた。


 「え」


「こっちにもあるぞ」



 ちょうど壁の燭台の間に隠し扉はあった。しかし、コンスタンとマルブランク、キルガにドノヴァン。4人が同時に見つけたのは違う隠し扉。


 マルブランクは走り出し、また違う燭台の間を押す。また。


 どうやら燭台の数だけ隠し扉はあり、その広間の全ての面が扉だらけになってしまった。


 「なんだ、この部屋は」キルガはぽっかり空いた8つの扉に唖然としてしまった。


 「全部真っ暗だ。どういう事だろうか」コンスタンは扉を見比べて歩く。


 ドノヴァンも戸の中を見て行ったが、全てが同じに見えた。


 はてどうしたものか。


 「これを間違った先人達は命を落としたのだろうか」コンスタンはターシャルがいる広間の中央に戻る。


 「1つずつ調べていくのか」キルガは待ち受けるものを想像して身震いした。


 「マルブランク、何を見ている?」コンスタンが訊いた。


 「摩耗さ。扉の周り全てを調べて比べているんだ。1番使われた戸なら、何かがすり減っているはずだからな」そう言うマルブランクは真剣で、薄くなった広い額から汗を浮かべていた。


 見てくれは小さなおっさんだが……。


 そんなマルブランクをコンスタンが見つめていると、彼が忙しげに1つの戸口を調べ出した。手をついて地面を見たり、扉を丹念に触ったりした。


 「ここだけ1番使われている。明らかにな」


しんとなる一同。


 「行くかい?俺はここだと思うぜ。間違えばどうなるかは知らねえ」マルブランクはまた皮袋をあおりはじめた。真剣になって酒が切れてきたのだ。


 「俺は賛成だ。てかそれしか道はねえだろうに」一同はまた沈黙。それしかない事は分かっていた。


 5人は不安のまま、また隊列を組み直し始めた。


 通路は心なしか細くなった。皆少し感覚をずらして歩く。そこはやけに曲がり角が多く、通過するのに時間がかかる。


 やがて下の階段を見つけて、ゆっくりと降りた。ターシャルは一段一段苦労した。しかし帰りは荷車を捨てて帰るつもりだった。


 

 遂に下のフロアに辿り着いた時、一同は息を呑んだ。


 狭い通路の左右にあるのは鉄格子。それが長らく奥まで続いていた。じめじめした場所だった。


 「古代エイヴァリアン人というのは、他民族を誘拐したりして生贄にしていたという」マルブランクは静かで低い声で呟く。


 「マルブランク。ターシャルが怖がるからやめなさい」コンスタンが言った。


 ターシャルは恐る恐る鉄格子の向こうを見た。あるのは風化した木屑ばかりだが、ここに入れられた人間はどういう気持ちで過ごしたのだろうか。赤く錆びた鉄格子の色でさえおどろおどろしくて、何かを連想させる。


 

 ぼたり。


 通路を進む一行の前に、何か巨大な黒い油の塊みたいなものが落ちた。かなり大きい。それがぶるぶる震えながら1人でに動き出して、細く上に。それが何かの形を成していき、最終的にそれは

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