第3話 バロム伯領
バロム伯爵カルレン・デレーヌ・バロムの目の前には、数日前に自身の高鳴る期待を馬に乗せて送り出した騎兵団長レーヤンと近衛兵主任エリック、その間には自分の前だというのに膝まずきもせずに城の広間をキョロキョロ眺める小男が1人いるだけだ。
なんだろう。何が起きたのか。
なぜ我が片腕達はこの小男を2日かけて連れ帰ったのだろうか。
レーヤンは主人の視線が痛い。エリックもだ。
3人を取り囲む守衛達はきょとんと見つめる。
小男は赤い絨毯や、丸い窓に掛かった鮮やかなカーテン、それに謁見の広間の壁を彩る装飾を見ていた。そしてどういう人間がどういう趣味でそれを職人に作らせたかを想像していた。彼の結論では時代背景のメチャクチャで統一感のない館だ。趣味は悪くはないが、知る者から見ればわかる。あのカーテンなぞは後から付け足したからあの窓の装飾に合わない。
「レーヤン、エリック、長旅ご苦労様だった。そちらの御仁がマルブランク・レッドハート殿で相違ないな?」バロム公は長い白髪混じりのブロンドを振り払いながら、恐る恐る訊いた。髭は綺麗に剃り上げ、守衛達とは色違いの煌びやかな制服を着ていた。鎮座するのは代々伝わる当主だけが座る椅子。バロム伯領主の証。
「そうだ」レーヤンとエリックが反応する間もなく、小男は腰に手を当てて答えた。凍りつく一同。
「マルブランク殿」レーヤンは彼を見上げながら言った。「我が主人がゆえ、そのような口はきいては欲しくありませんな。おわすのはバロム伯であわせられるぞ」
「バロム伯爵ね。そんなもんに興味があったら突っ立ってないよ。そうだろ?あいつらに槍で突っつかれるのが怖かったらさ。俺は狂ってるんじゃないんだよ」そう言うとマルブランクは頭をぼりぼりかいた。
バロム伯はじっとマルブランクを見据えた。品定めをする。
「ご用件はお聴きかな?」バロム伯爵が訊いた。
「ああ。ざっくりは。だが問題はあんたが俺を紹介してもらった誰かに話を聞いているかが問題だぜ」さすがにマルブランクがあんたと言った時には守衛もざわつき、身構えざる得なかった。
「と、言うと?」バロム伯は冷静だった。
「報酬の話だよ。俺は高いぜ」
「ギュアン侯からは聞かなかった」バロム伯はあえて名前を出した。相手の反応が見たかったのだ。
「マキシ・レッサー・ギュアン侯爵か。あまり知らんが親父のクワンにはスカウトされたな。色々社交会には連れて行かれたぜ」マルブランクが言った。
そしてバロム伯がぴくりとも動かなくなるのを見て、その配下たちも止まった。
その名、また父親の名を知るということは……
しばらく謁見の広間が静寂に包まれた。
「お互いいい気持ちで仕事はしたいからな。数字は出しとくからまた言いに来てくれ。酒飲んでるからよ」マルブランクはそう言うと踵を返して部屋を出て行った。
しばらくレーヤンやエリック達は主の顔を見つめていた。そこから伺えるのは、マルブランク・レッドハートに対して抱く、何やら複雑そうな表情だった。
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